ご来院の方へ 乳房温存術後または乳房全摘後の再建(再生医療)

医療法人鉄蕉会亀田総合病院及び亀田クリニックの乳腺科では、乳房温存術後または乳房全摘後の再建として、培養脂肪幹細胞付加脂肪注入方法に基づく再生医療を用いた新しい治療を開始しました。
通常の脂肪注入と比べて、幹細胞がより多く含まれた脂肪を移植することで移植後の壊死(脂肪細胞が死滅すること)が減少するため、通常の脂肪注入と比べて、生着する量が増え、しこりや硬結の発生が少なくなることが期待されます。また、他の乳房再建の方法と比べて、人工物(乳房インプラント)と組み合わせることで、柔らかい乳房を作ることができます。お腹などの皮膚と脂肪をまとめて乳房へ移植する自家組織皮弁法と比べて、大きな傷を作らないことが利点となります。

本再生医療は、形成外科専門医である淺野裕子(乳房再建外科部⾧)が担当します。淺野部⾧は、2008年よりセルポートクリニック横浜において、東京大学形成外科学教室と共同で開発してきた脂肪幹細胞付加脂肪注入法(CAL法)の多くの臨床経験を積んでおります。当院でもこの術式を引き続き行なっております。

外来は千葉県(亀田クリニック、亀田総合病院附属幕張クリニック)、東京都(亀田京橋クリニック)の3箇所で行なっていますので、まずは説明のみ希望される患者さまも外来の予約をしてから受診ください。

脂肪注入移植の3つの方法

当院では、次の3種類の脂肪注入法を乳房再建に用いています。

単純脂肪注入

お腹や太ももから吸引した脂肪を遠心処理して、注射器で注入する方法です。

脂肪幹細胞付加脂肪注入(セリューション法)

吸引した脂肪の半分を器械にかけて幹細胞を取り出し、残りの脂肪に混ぜて注入する方法です。幹細胞を混ぜることにより、脂肪注入後の生着率は単純脂肪注入法より高くなります。

培養脂肪幹細胞付加脂肪注入

今回新しく開始した方法です。器械にかけて幹細胞を取り出す方法では、多くの脂肪を吸引する必要がありました。新しい方法では、患者さまから1~2cmぐらいの脂肪を採取して細胞加工施設に送り、培養により患者さまご自身の脂肪幹細胞を増やして保存しておきます。乳房再建の手術日に合わせて、この幹細胞を当院に送ってもらい、手術で吸引した脂肪に混ぜて注入する方法です。幹細胞を抽出するためのたくさんの脂肪が必要なく、痩せた体型の患者さまにも行うことができます。また幹細胞は凍結保存しておくため、この幹細胞を2回目、3回目の脂肪注入手術でも使うことができます。

各種脂肪注入方法の比較

単純脂肪注入 脂肪幹細胞付加脂肪注入
(セリューション法)
培養脂肪幹細胞付加脂肪注入
必要な脂肪の採取量 注入に必要な量だけ吸引する 幹細胞採取のための脂肪を多く必要とするため、他の方法の2倍ぐらいの吸引をする 注入に必要な量に加えて、幹細胞採取のためにごく少量の脂肪を必要とする
生着率 幹細胞を付加する方法に比べて、やや劣る 生着率が高い 生着率が高い
放射線療法後の乳房への注入 適応あり 良い適応 大変良い適応
費用
(片側乳房温存後の変形の場合)
約55万円 約110万円 約110万円

本再生医療について

名称

培養自家脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた乳がん術後の乳房再建

再生医療等提供計画

再生医療等の安全性の確保等を図るため、再生医療等の提供機関及び細胞培養加工施設についての基準を定めた「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(平成26年11月25日施行)」を遵守して行います。再生医療等提供計画を厚生労働大臣に提出し、再生医療提供計画(計画番号 PB3220030)が受理されています。治療は亀田総合病院手術室で行なわれ、細胞加工と培養細胞の保存は委託先(セルポートクリニック横浜 CPC(施設番号: FC3140003))で行われます。

培養脂肪幹細胞付加脂肪注入の治療の流れ

幹細胞分離のための脂肪採取(亀田総合病院または亀田クリニック内手術室)

局所麻酔下に、注射器による吸引または1cm 程度の皮膚切開による切除をおこなって、脂肪を採取します。時間は20分から30分間程度です。

幹細胞の分離、培養、保管(細胞加工委託先)

採取した脂肪組織を、清潔の状態で専用の容器に入れ、細胞加工委託先へ送ります。そこでは、幹細胞を含む間質血管細胞群を分離し、さらに培養して幹細胞を増やします。増やした幹細胞は品質検査が行われ、凍結保存されます。

乳房再建手術(亀田総合病院手術室)

再建手術日に合わせて、細胞加工委託先よりご自身の培養幹細胞が当院へ送られてきます。
亀田総合病院手術室で、全身麻酔下に、お腹や太ももなどから脂肪吸引器を用いて移植に必要な脂肪を採取します(約30分間)。
吸引した脂肪と幹細胞を混ぜたものを、乳房の皮下組織に専用の注射器を用いて注入移植します(約30分間)。

※2回目以上の手術を行う方の場合※

2回目の乳房再建手術の時は、細胞加工委託先で凍結保存しておいた幹細胞を使用しますので幹細胞分離のための脂肪採取は必要ありません。1回目と同じように脂肪吸引をおこなって、目的の部位に注入移植をします。細胞の凍結保管期間は2年間としています。

本再生医療を用いた乳房再建について

乳房温存後の再建

部分切除と放射線治療によって凹んだ部分の修正に行います。残った組織が硬い場合は、2回または3回の脂肪注入が必要になります。

乳房全摘後の再建

乳房エキスパンダーで皮膚を拡張した後に、自家組織皮弁または乳房インプラントに入れ替える方法を二期的乳房再建とよびます。
この方法に、本再生医療を組み合わせて行います。当院で最も多く行われている乳房インプラントによる再建の場合は、乳房エキスパンダーからインプラントへ入れ替える手術の時に、培養脂肪幹細胞脂肪注入を組み合わせて行います

Step(培養脂肪幹細胞脂肪注入法)

乳房エキスパンダーで皮膚を拡張した後に、第1回目の培養脂肪幹細胞脂肪注入とエキスパンダー(またはインプラント)の挿入を行い、さらに半年後に第2回目の培養脂肪幹細胞脂肪注入を行います。乳房のサイズが小さい方の場合、ここで人工物(※)は抜いて終了となります。乳房のサイズが大きい方の場合は、さらに第3回目の培養脂肪幹細胞脂肪注入を行ない、人工物を抜いて終了となります。
※人工物はエキスパンダーやインプラントを示します。

乳房再建の方法

乳房再建は、乳がん手術後の変形の違い、患者さまの体型や乳房の形状の違いなど様々なことを考慮して計画されます。本再生医療はその手段の一つであり、適応にならない場合もあります。また本再生医療は、単独で、または他の手段と組み合わせて行われます。乳がんで失われた(または変形した)乳房を元通りに戻すものではなく、何かの手段(材料)を使って乳房を作っていく(再建をする)治療です。担当医と患者さまが仕上がりのゴールを決めて計画されるものであり、外来では本再生医療だけでなく他の方法も含めて説明を受けられると思いますが、治療計画と仕上がりについての不明点は遠慮なくお尋ねください。
幹細胞を混ぜた脂肪注入による再建手術は、残された乳房組織の硬さ、癒着の程度、放射線治療の有無によって、1回の手術で目的に達して終了する場合と、さらに2回目または3回目の手術が必要になる場合があります。また患者さまの体型や健側乳房の大きさによって、移植する脂肪の量が異なります。その方に合った本治療の回数や全体の流れを、手術前に説明いたします。

本治療の適応となる患者さまの選択基準

乳がん術後の変形に対して乳房再建を希望する方。
ただし、以下に当てはまる場合は適応となりません。

  • 現在治療中の乳がん以外のがんを合併している場合
  • 乳がんの再発転移があり治療中、またはその疑いがあり、乳がん治療担当医が不適当と判断した場合
  • ヒト免疫不全ウイルス感染症が否定できない場合
  • コントロール不良な虚血性心疾患、糖尿病、精神障害を合併している場合
  • ゲンタマイシン等のアミノグリコシド系統の抗生剤、あるいはアムホテリシン B などのポリエン系統の抗真菌剤に対するアレルギーを有する場合
  • 20歳未満である場合
  • 医師が不適当と判断した場合(妊娠中もしくは不妊治療中、喫煙者、全身麻酔手術に不適な健康状態、手術後に通院できないことがあらかじめわかっている方、その他)

中止基準について

医師の判断で、以下の理由により治療を中止することがあります。

  • 患者さまから中止の希望があった場合
  • 細胞の培養等が計画通りに実施できなかった場合や、細胞の加工工程あるいは加工された細胞の品質に異常が認められた場合
  • 明らかな副作用が発現し、医師が中止する必要があると判断した場合
  • その他、医師が治療を続けることが不適当と判断した場合

費用について

本治療は保険が適用されないため全額ご本人負担の自費診療となります。本治療にかかる費用には、細胞採取、細胞加工費用、再建手術、入院費用などが含まれ、105万円~となります。

※なお、本治療にかかる合計の費用は、入院日数や再建手術の内容(回数、両側または片側など)によって、異なります。
費用について書面にて担当医より説明があります。

本治療の実績

本治療は、すでに国内医療機関において行われた乳房全摘術後の乳房再建に対する研究(計画番号:PB3150003、期間:2015年7月24日~2019年3月19日)5症例において、高い軟部組織の再建率等が示されています。安全性に関して、同研究では、当院で2006年より実施している非培養の幹細胞を用いる治療後に生じた術部の腫れや痛み等と同様の事象が認められたものの、他に特異的な事象は確認されておりません。また、同研究では予め培養して得た幹細胞を用いたことで、手術時間が35%程度(約70分)短縮し、患者さまの負担が軽減されることが示されました。

Q&A

本再生医療に用いる培養した幹細胞は安全ですか?
患者さまご自身の脂肪組織から分離培養した幹細胞を使用します。幹細胞用の脂肪採取は当院の医師がおこないます。
細胞分離と培養は委託先のセルポートクリニック横浜CPCで行い、再建手術まで適切な方法で冷凍保管されるとともに、品質検査が行われます。
委託先であるセルポートクリニック横浜は、細胞加工施設として、再生医療等の安全性の確保等に関する法律第35条第1項の規定に基づいて厚生労働省の許可を得ています(施設番号:FC3140003)。
本再生医療は通常の脂肪注入と比べて、どのような利点がありますか?
幹細胞がより多く含まれた脂肪を移植することで移植後の壊死(脂肪細胞が死滅すること)が減少します。そのため、通常の脂肪注入と比べて、生着する量が増え、しこりや硬結の発生が少なくなることが期待されます。
本再生医療は他の乳房再建の方法と比べて、どのような利点がありますか?

本再生医療は自家組織法に含まれます。人工物(乳房インプラント)と組み合わせることで、柔らかい乳房を作ることができます。また、お腹などの皮膚と脂肪をまとめて乳房へ移植する自家組織皮弁法と比べて、大きな傷を作らないことが利点となります。

腹部自家組織皮弁 乳房インプラント 乳房インプラント+培養脂肪幹細胞
再建乳房の仕上がり 柔らかい やや硬い 柔らかい
手術の体への負担 (手術時間) 大きい (6~8時間) 小さい (1時間) 小さい (1時間半)
入院期間 10日~14日間 3日~4日間 3日~4日間
費用 保険診療 保険診療 自由診療
放射線療法後の再建の適応 可能 症例による 可能
術後⾧期にみた利点と欠点 (1)自分の組織のため入れ替えなどが不要
(2)健側が乳癌に罹患した場合に、再建方法の選択が少なくなる
(1)破損などの場合に入れ替え手術が必要
(2)健側乳房の変化に合わせて入れ替えが可能
(1)破損などの場合に入れ替え手術が必要
(2)脂肪注入を繰り返すことで、インプラントが不要になる場合もある
本再生医療は他の再建方法と比べて、どのような欠点がありますか?
本治療は自費診療となります。また脂肪の生着には個人差があること、乳がん手術の変形の程度によって、適応とならない場合があること、1回の治療では治せない場合があること(数回の手術が必要になる場合があること)が欠点となります。
本再生医療によって脂肪注入だけで乳房は再建できますか?
残された組織の変形程度、患者さまの体型、反対側の乳房の大きさなどによって、脂肪注入だけで乳房再建ができる場合と難しい場合があります。診察をして、判断します。
本再生医療は、放射線照射のあとの再建にもおこなえますか?
良い適応となります。放射線照射治療によって組織が障害された部位へ移植すると、幹細胞の働きで血流が改善し組織の修復が期待されます。温存療法で放射線治療が終わってから1年後に、本再生医療によって凹みや変形を治すことために本再生医療を行います。また放射線照射治療を受けた方の乳房全摘後の再建では、人工物である乳房インプラントによる再建は難しいとされています。しかし、本再生 医療と乳房インプラントを組み合わせることによって、照射後の乳房再建の選択肢の一つとなります。
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