着床前後の血清プロゲステロン値低下は流産リスク(Reprod Med Biol. 2023)

ホルモン補充周期の胚移植時期の血清プロゲステロン値の着床・妊娠継続との関係はディスカッションが尽きないテーマです。胚の着床維持に、着床前後の血清プロゲステロン値が影響を与えるか、また低い場合にレスキューできるかどうかを調査した国内からの報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

着床にはプロゲステロン値が低くても影響は少ないですが、妊娠継続には高い状態を維持する方が好ましいことがわかりました。

≪論文紹介≫

Rena Toriumi, et al.Reprod Med Biol. 2023 Mar 22;22(1):e12511.  doi: 10.1002/rmb2.12511.

経腟プロゲステロン製剤(ウトロゲスタン200mg 3回/日)を投与したホルモン補充周期下凍結融解胚盤胞移植を実施した女性180人を対象とした後ろ向き研究です。
黄体補充14日目(妊娠4週0日)に妊娠(hCG値 ≥15 IU/mL)が診断された時点で血清プロゲステロン値を測定しました。経腟プロゲステロン製剤単独投与群と経腟プロゲステロン製剤+ジドロゲステロン併用群で生殖医療結果を比較検討しました。
結果:
経腟プロゲステロン製剤単独投与群では、流産症例の平均血清プロゲステロン値(9.6ng/mL)は、妊娠継続例(14.7ng/mL)に比べ有意に低くなりました。血清プロゲステロンのカットオフ値である10.7ng/mLは、妊娠継続率を予測するのに適した値でした(ROC curve 0.687 confidence interval 0.563-0.811)。着床時の血清プロゲステロン値が10.7ng/mL未満の女性27名にジドロゲステロン15mg/日+週1回プロゲステロンデポ125mg筋注しても、血清プロゲステロン値が10.7ng/mL以上の群より流産率が高いままであった。ただし、黄体補充開始から経腟プロゲステロン製剤+ジドロゲステロン併用した76名の女性では、血清プロゲステロン値10.7ng/mL以上で44名(84.6%)、血清プロゲステロン値10.7ng/mL未満で20名(83.3%)の妊娠継続で差は認めませんでした。

≪私見≫

過去の報告も含めて、子宮内膜と胚の対峙・接着、着床をするための血清プロゲステロン濃度と着床後の浸潤・増殖に関わる血清プロゲステロン濃度は少し異なりそうですね。

〜過去の関連ブログ〜
胚移植前のプロゲステロン濃度は生殖医療結果に影響を与える(Gynecol Endocrinol. 2019)
胚移植前黄体補充時プロゲステロン値の予測因子(Reprod Biomed Online. 2020)
胚移植前プロゲステロン濃度は腟剤使用範疇であれば高くても大丈夫(Fertil Steril. 2023)
移植時の血中P値は妊娠率に影響しますか。(論文紹介:肯定意見)
プロゲステロン筋肉注射が膣剤より移植成績に奏功する(論文紹介)
天然型黄体ホルモン経口薬は体外受精治療に適応される?
HRT周期のプロゲステロンによる子宮内膜厚変化は妊娠には影響しない(論文紹介)
凍結融解胚移植の黄体補充はいつまでが無難?
絨毛組織からE2/P4ホルモンがではじめるのはいつ?(論文紹介)
 絨毛組織からE2/P4ホルモンがではじめるのはいつ?(その2:論文紹介)
絨毛組織からのプロゲステロン分泌は妊娠継続と流産とで異なる(論文紹介)

文責:川井清考(院長)

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