胚移植前のプロゲステロン濃度は生殖医療結果に影響を与える(Gynecol Endocrinol. 2019)
ホルモン補充周期下凍結融解胚移植にて胚移植日の血中プロゲステロン値が生殖医療結果に影響(成績に影響がない、もしくは成績が低下する)を与えるかどうかは意見が分かれるところです。
今回、ご紹介する報告は、正常核型胚をホルモン補充周期下凍結融解胚移植する際の胚移植前日のプロゲステロン値が生殖医療成績に影響を与えるか調査したスペインの研究です。
≪ポイント≫
正常核型胚のホルモン補充周期下凍結融解胚移植では、胚移植前日の血中プロゲステロン値が低いと流産率の増加・生児出生率が低下と関連していることがわかりました。
≪論文紹介≫
S Gaggiotti-Marre, et al. Gynecol Endocrinol. 2019 May;35(5):439-442. doi: 10.1080/09513590.2018.1534952.
2016年1月から2017年6月までに正常核型胚のホルモン補充周期下凍結融解胚移植210名244周期の胚移植前日の血中プロゲステロン(P4)濃度と生殖医療成績を調査したレトロスペクティブコホート研究です。ホルモン補充周期の黄体補充はP+0 夜からウトロゲスタン®️200mg膣錠を8時間毎におこなっています。P+4の正午前にホルモン採血を行い、血中E2濃度 (< 75 pg/ml) 、血中P4濃度 (< 5 ng/ ml)、子宮内膜厚(<5mm)の場合は胚移植キャンセルを提案しています。胚移植はP+5に実施しました。平均血中P4濃度は11.3±5.1ng/ml、四分位: Q1: 8.06 ng/ml; Q2: 8.07-10.64 ng/ml; Q3: 10.65-13.13 ng/ml; Q4: > 13.13ng/mlとなりました。血中P4濃度が低い四分位に含まれる患者は、高い患者に比べ、流産率が高く、生児出生率が低くなりました。
多変量解析では平均血中P4濃度 10.64ng/mlをカットオフとして流産率OR: 3.49 95% CI [1.41-8.65]、生児出生率OR: 0.57 95% CI[0.34-0.97] でした。
≪私見≫
この論文の面白いところは、胚移植前日の血中P4濃度により生殖医療成績が変わるのであれば、胚移植当日に追加介入することで生殖医療成績が改善をもたらすことができるのではないかというサジェスチョンです。
実際、この論文でも妊娠率には差がついておらず、その後の流産率から差がついているところを考えると、プロゲステロン濃度が低い患者において追加介入することで流産率の上昇を予防できる可能性は十二分に考えられます。
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文責:川井清考(院長)
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