着床前検査(PGT-A)は不育症患者の出生率を改善できる(論文紹介)

着床前検査が日本の現在の悩める不妊カップルの福音となると感じている人は多いのではないでしょうか。もちろん、実施できない状況で実施しない場合と、実施できる環境で取捨選択をして実施しない場合では全く意味合いは異なりますし、現在の日本語のSNSなどを見ると良いことばかりに感じますよね。ただ、世界的に見ると生児出産率や費用対効果の一面から考えると、『すべての不妊患者において着床前検査を日常的に使用することを推奨するには十分な証拠がない』としています(米国生殖医学会、2018年)。
どのような患者様に提供すればいいのか、これから本格的に実施を開始する我々が向き合う大事なポイントになってきます。その中で不育症患者について有用性があるのかどうか検討した論文をご紹介します。

≪論文紹介≫

S J Bhatt, et al. Hum Reprod. 2021.DOI: 10.1093/humrep/deab117

Society of Assisted Reproductive Technologies Clinical Outcomes Reporting System(SART-CORS)が2010~2016年に収集した体外受精周期を対象としました。
10,060組のカップルの合計12,631回の凍結融解胚移植を対象としています。反復流産(3回以上の流産既往)のカップルが含まれ、PGT-Aを使用するかしないかに関わらず凍結融解胚移植を受けました。
主要評価項目は生児出生率、副次評価項目は、臨床的妊娠率、流産率、生化学的妊娠としました。差異分析には、患者ごとの複数サイクルを考慮したGEE regressionモデルを用いました。モデルに含まれた共変量は、年齢、分娩回数、地域、人種/民族、喫煙歴、および体外受精の適応としました。SARTで定義された年齢層(35歳未満、35~37歳、38~40歳、41~42歳、42歳以上)で層別化しています。

結果:
反復流産と診断された女性において、PGT-Aを用いた凍結融解胚移植とPGT-Aを用いない凍結融解胚移植とを比較した調整済みオッズ比(OR)、95%CIは以下の通りでした。

  生児出産率 臨床妊娠率 流産率
35歳未満 1.31(1.12、1.52) 1.26(1.08、1.48) 0.95(0.74、1.21)
35~37歳 1.45(1.21、1.75) 1.37(1.14、1.64) 0.85(0.65、1.11)
38~40歳 1.89(1.56、2.29) 1.68(1.40、2.03) 0.81(0.60、1.08)
41~42歳 2.62(1.94、3.53) 2.19(1.65、2.90) 0.86(0.58、1.27)
42歳以上 3.80(2.52、5.72) 2.31(1.60、3.32) 0.58(0.32、1.07)

結論:
反復流産女性におけるPGT-Aを実施することで生児出生率が非常に有意に増加し、年齢が上がるにつれてより顕著な差が認められました。

≪私見≫

報告者らはPGT-Aを実施することにより流産率が著名に減ると予測していましたが、有意差をもって変化したのは生児出生率と臨床妊娠率でした。
反対に考えると反復流産患者様の凍結融解胚移植においては、(着床しない+生化学妊娠)が減ることにより最終的に良好な結果に辿り着くことがわかります。
体外受精は本当に論文のデータの解釈、そして自施設の成績をもって患者様に医療を提供していくことの大事さを感じています。その中で流産・生化学妊娠率をしっかり把握することは本当に大事なポイントになります。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張