正常核型と思われた異常受精1PN胚からの胞状奇胎(論文紹介)

正常受精して正常核型だった受精卵でも一定数しか妊娠しません。今回ご紹介する論文は、異常受精卵(1PN)から胚盤胞になり着床前診断を実施し46,XXだったので移植したら胞状奇胎になってしまった症例報告です。

≪論文紹介≫

Beth Zhou, et al. F S Rep. 2021. DOI: 10.1016/j.xfre.2021.01.003

卵巣予備能低下、軽度男性因子がある3妊0産の42歳の女性。
卵巣刺激を行い、採卵数10個、成熟卵10個に対して顕微授精を行い、胚盤胞を6個(2PN胚 5個 1PN胚 1個)凍結しました。これらにNGS法による着床前検査を実施したところ、正常核型胚は1個(46,XX、1PN胚)でした。この胚を移植し妊娠成立しましたが、結果的に全胞状奇胎(精子由来の片親性ダイソミー⇨精子由来の片親発生)でした。
両親のどちら由来の染色体であるか判断がつかない場合(異常受精胚の46,XXなど)、着床前診断をより詳しく行うSNPs解析もしくはSTR解析を行う選択肢も考慮しなくてはいけないかもしれません。SNPs解析はリファレンスデータから解析するので、その検体そのものから解析可能ですが、STR解析は両親どちらかのDNAが必要になります。

≪私見≫

異常受精胚(abnormally fertilized oocyte (AFO胚))で胚盤胞に育った場合、唯一の貴重胚盤胞だったら移植するべきでしょうか。様々な見解があります。
患者のために思って行った結果が不利益につながることもあります。
Itoiらは1PN胚で着床前検査はおこなわず、正常分娩に至っている複数例の症例を報告しています。
私たちも患者様の同意のうえで移植し分娩に至った症例が複数例あります。反対に顕微授精後に正常受精を確認しているのに胞状奇胎となった症例も経験しています。
臨床を行なえば行うほど希少疾患に出遭いますし、その度に過去の事例から学ぶことが多くあります。日々勉強を重ねると共に私たちが経験した希少疾患も論文にまとめることが後人の道標になることをわかりながらも時間がないことを言い訳にできていない日々に猛省の所存です。

胞状奇胎について
Human Fertility and Embryology Authorityが2019年にまとめたところ、1991年から2018年の間、体外受精の胞状奇胎の発生率は0.02%(1/4,300)でした。胞状奇胎の再発リスクですが、1回の既往なら1%–2%、2回の既往なら15%–17% とされています。つまり偶然ではなく発生率が高い女性がいるということがわかります。
Nguyenらは完全胞状奇胎の変異を解明するために,再発完全胞状奇胎の65名の女性に対して全ゲノム配列決定を試み、減数分裂時に関連する遺伝子MEI1,TOP6BL/C11orf80,REC114に変異を同定しました。Mei1欠損マウスの卵子を観察すると一部の卵子では第一極体放出時に染色体をすべて第一極体に放出しまう現象がおこっていることがわかりました。単為発生はこのように発生しているのでしょうが、なかなか臨床では判断することができませんね。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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