偽異常受精胚(0PN)は観察方法でレスキューできる?(論文紹介)

体外受精の受精確認は移植する胚を選ぶ上での最初の評価ポイントになります。前核(PN)が2つ出現する2PNが正常で、その他の胚は異常受精胚(abnormally fertilized oocyte (AFO胚))と位置付けます。通常、受精後17〜20時間で前核が出現し23〜25時間で消失するのが一般的ですので受精後18-20時間に観察することが一般的です。
しかし、一定の頻度で前核がみえないタイプの異常受精胚(0PN)で綺麗に分割してきて移植胚として取り扱うか迷うことがあります。そのような場合、タイムラプスを用いると判断がつくかもしれないと報告した千葉大学からの論文をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Tatsuya Kobayashi , et al.Sci Rep. 2021. DOI: 10.1038/s41598-021-98312-1
タイムラプスモニタリングの連続評価と従来のインキューベートシステムの定点評価を比較して、前核を持たない異常受精卵(0PN)の発生率が低下する理由を調べることを目的としました。受精後6〜9時間後にタイムラプスで観察した514個の胚と、受精後18〜21時間後に従来の方法で観察した144個の胚を分析しました。
本研究の主要評価項目はshort insemination後(6-9時間の媒精)にTLMを行った際の0PN胚の割合、副次評価項目は媒精期間としました。その他に受精開始後20時間以内にPNが消失した胚の胚盤胞形成率とその後の胚移植成績としました。
結果:
0PN胚の割合は、定点観察よりもタイムラプスの連続評価の方が有意に減少しました。通常の定点観察だと0PNと判断されていた 早期にPNが消失する胚は良好胚盤胞を形成し,妊娠成績は他の胚と同様でした。定点観察で0PN由来の胚が多かったのは, PN出現を見落としている可能性が考えられます。

≪私見≫

この論文は、皆が思っていたことを正式な報告という形で論文化したというところに意味があります。もちろん、短時間での媒精症例に限っていたり、ICSI症例を除外していたり、症例数が少ないなどのバイアスがありますが、今まで以上に患者様に情報提供する一つの参考資料になるかと思っています。
ただし、誤解をしないでほしいのは、「0PN胚で綺麗な胚盤胞になったものは早期消失しただけだから正常受精を確認した胚と同様だ」という理解ではありません。実は3PNや1PNなどの異常受精からの胚盤胞である可能性も否定できないので、観察できていないのであれば移植する胚と取り扱うかどうかは医師と相談すべき事項だと思います。

この論文で参考になったのはtPNf(PNの消失時間)とt2(2細胞に分割するまでの時間)は相関するということです。0PNをみたときに早期消失群がどうかの判断材料になると思います。
参考までに
2PN、1PN、3PNなどを含む平均tPNfは25.88±9.72時間(95%CI;24.95〜26.81時間[範囲;17.5〜120.8時間])、2PN胚の平均tPNfは,TLM群では25.2±8.12時間(n=341,95%CI;24.28〜26.02時間[範囲;17.5〜120.8時間])、t2-TPNfの平均値は2.55±0.88時間(n=331,[範囲;-0.5〜9.8時間])

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張