異常受精(1PN)胚盤胞の生殖医療成績(論文紹介)
異常受精胚(AFO胚)は着床前診断が始まってから一定の割合で正常核型胚が含まれていることがわかってきました。その中で胚盤胞になったとき、患者様と話し合いの結果、移植対象となりやすいのが0PN、1PN由来の胚です。着床前検査を行わず1PN由来胚の生殖医療成績を示した報告をご紹介いたします。国内の報告です。
≪論文紹介≫
Fumiaki Itoi, et al. J Assist Reprod Genet. 2015. DOI: 10.1007/s10815-015-0518-
異常受精1PN胚(媒精または顕微授精周期)の培養成績と生殖医療成績を同じ周期の正常受精胚(2PN胚)と比較検討したレトロスペクティブ研究です。
IVF 623周期(媒精426周期、顕微授精197周期)中、1PN胚が含まれた周期は,媒精周期(22.1%)と顕微授精周期(25.1%)で同程度でした。
1PN胚は2PN胚に比べて5日目の胚盤胞期まで進む割合が有意に低いものの(それぞれ18.5%対52.6%,P<.05),着床率(33.3%対41.2%),臨床妊娠率(33.3%対37.4%),流産率(18.2%対20.9%),継続妊娠率(27.3%対29.5%)は2群間で同程度でした。媒精周期で1PN胚から得られた33個の胚盤胞を用いた33回の移植周期では奇形を伴わない9件の出生をみとめましたが、3回の顕微授精周期では着床が認められませんでした。
媒精周期の1PN胚の3日目と5日目、6日目の胚発育は顕微授精周期に比べて有意に高くなりました。
結論:
1PN胚の胚盤胞形成率は,媒精周期と顕微授精周期の正常受精胚に比べて有意に低くなりましたが,媒精周期の1PN胚盤胞は十分な生殖医療成績を認めました。
≪私見≫
この論文でも記載されていますが、異常受精1PN胚の発生の仕方は様々です。
媒精周期における1PN胚は、雄性前核と雌性前核が近い部位にあると共通の前核内に収納されることに起因することがわかっています。つまり卵子の紡錘体の近傍から精子がはいると正常の染色体情報であったとしても1PN胚になります。(Levron J, et al. Biol Reprod. 1995. Krukowska A, et al. Mol Reprod Dev. 2005. Van Blerkom J, et al. Hum Reprod Update. 1995)最近では、顕微授精は紡錘体を見ながら行いますので精子が近傍に入って1PNになる率が低いかもしれません。
異常の1PN胚はどのような場合か、単一の染色体から成る細胞(精子もしくは卵子)から単為発生したHaploid(ハプロイド)の場合、もしくは実は1PNの横に小さな雄性前核や脱凝集しなかった精子の頭部が見られる精子側の異常でおこる場合と二種類があります。これらの異常1PN胚は顕微授精胚で多く起こることがわかっています。(Payne D, et al. Hum Reprod. 1997)
ATLAS OF HUMAN EMBRYOLOGY(https://atlas.eshre.eu/es/14546650461602050?fbclid=IwAR1JQzB6iyYD3WGCRAHyvKQtmUnLqholNmHmIxN4My0LhYEr3JR3v99IauA)では、媒精や顕微授精の1PN胚の発生率は約1%で、一定数単為発生であることが報告されています(Plachot, et al. 2000)。1PN胚は、PN形成やPN融合が非同期である可能性もあり、一定数 母親・父親の遺伝情報をもつdiploid胚で2つの極体が普通に観察されることもあります。このような1PN胚を移植することも考えられますが、異数性の発生率は2PN胚に比べて高いことが懸念されます(Yan et al. 2010)
(参考資料)
Itoiらは36歳平均 正常受精率は 媒精 60.2% 顕微授精 62.8%
1PN胚は14.3%(576/4019: 媒精) 13.5%(252/1864: 顕微授精)
胚盤胞到達率 | 良好胚盤胞到達率 | |||
受精方法 | 媒精 | 顕微授精 | 媒精 | 顕微授精 |
2PN | 55.7% | 46.4% | 29.7% | 22.5% |
1PN | 21.4% | 10.7% | 9.6% | 1.4% |
当院での成熟卵あたりの正常受精率は媒精 73.5% 顕微授精 83.9%
1PN率は媒精3.8% 顕微授精2.6%です。
胚盤胞到達率 | 良好胚盤胞到達率 | |||
受精方法 | 媒精 | 顕微授精 | 媒精 | 顕微授精 |
1PN | 29.5% | 20.3% | 12.0% | 8.6% |
この論文と当院の環境と違う部分を考えてみました。
当院では全例タイムラプスを用いているところ、受精確認がこの論文より少し早いところです。異常受精胚は、まず複数ポイントで確認し2PNの見落としをなくすところ、そのうえで、異常だった場合は患者様とクリニックごとの成績を比較し、移植を行うかどうか検討材料とすべきなのかもしれません。基本は積極的に戻さないというのが、着床前診断で倍数性検査が積極的にできない状況での大筋の答えかもしれません。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。