妊娠高血圧腎症はアスピリン内服で予防できる?(論文紹介)

妊娠高血圧腎症は、母体および周産期の死亡や合併症の重要な原因となっています。1979年、妊娠中にアスピリンを定期的に服用していた女性は、そうでない女性に比べて子癇前症になる可能性が低いという研究結果がCrandonとIsherwoodによって報告されました。その後、妊娠高血圧腎症予防のための低用量アスピリンの有用性について30件以上の試験が行われ、これらの試験のメタ分析では、このような治療により妊娠高血圧腎症の発生率が10%低下することが示されています。

現在までにわかっていることとして下記がございます。
①妊娠年齢に関係なくアスピリン内服は妊娠高血圧腎症予防効果あること
②妊娠16週以前の方がアスピリン内服による予防効果が明確であること
③高血圧合併妊娠には予防効果が認められないこと

妊娠中の低用量アスピリン使用について①
妊娠中の低用量アスピリン使用について②

≪論文紹介≫

Rolnik DL, et al. N Engl J Med. 2017. DOI: 10.1056/NEJMoa1704559

妊娠11~14週から妊娠36週まで,妊娠高血圧腎症のリスクが高い単胎妊娠の女性1,776例に、1日当たり150 mgのアスピリンまたはプラセボの投与を無作為に割り付けた多施設共同二重盲検プラセボ対照試験(イギリス、スペイン、イタリア、ベルギー、ギリシャ、イスラエルの13の産科病院)を実施しました。
主要評価項目は、妊娠37週以前の妊娠高血圧腎症による分娩としintention-to-treat解析をおこないました。
結果:
アスピリン群 798名、プラセボ群 822名が研究に参加・追跡可能でした。
早発妊娠高血圧腎症はアスピリン群では13名(1.6%)プラセボ群では35名(4.3%)となりアスピリン群が低率となりました(アスピリン群のオッズ比、0.38;95%CI、0.20~0.74;P=0.004)。新生児期、その他の有害事象発生率には,グループ間で有意な差は認められませんでした。
結論:
妊娠第1期のスクリーニングで妊娠高血圧腎症のリスクが高いと判断された単胎妊娠の女性を対象とし,妊娠11~14週から妊娠36週まで1日150mgのアスピリンを投与することで,妊娠高血圧腎症の発症率がプラセボ投与に比べて有意に低下することが判りました。

≪私見≫

体外受精患者さまのうち、凍結融解胚移植では妊娠高血圧腎症が多いことがわかっています。今後、不妊治療施設、妊娠初期スクリーニング施設、周産期施設が連携して、より安心できる妊娠生活を行える体制を整えていく必要があると思っています。
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文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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