妊娠中の低用量アスピリン使用について①

不妊症のクリニックでは低用量アスピリン療法は不育症治療や着床不全治療(着床不全治療はエビデンスも少なく賛否両論あります)に用いることが多くなっています。しかし周産期領域では妊娠高血圧症候群の予防で低用量アスピリンを使用することが増えています。

日本産婦人科診療ガイドライン 産科編2020の「CQ309-2 妊娠高血圧症候群と診断されたら?」でも妊娠高血圧腎症を発症した女性に対して、再発予防目的で次回妊娠時に低用量アスピリン服用を考慮する。(推奨度C)となっています。
日本では 低用量アスピリンの出産予定日12週以内(妊娠28週以降)は使用禁忌になっており、妊娠高血圧腎症予防としての保険適応がありません。
使用に関しては適応外使用という位置付けとなります。

アメリカ産婦人科学会(ACOG)、世界保健機関(WHO)、世界妊娠高血圧学会(ISSHP)、英国国立医療技術評価機構(NICE)ともに同様の見解をだしておりますので、こちらについて触れておきたいと思います。

低用量アスピリンは、妊娠高血圧腎症の発症・重症化予防のために、妊娠中に使用されてきています。アメリカ産婦人科学会は早期発症の妊娠高血圧腎症、妊娠34週未満の早産の既往がある女性、妊娠高血圧腎症を合併した妊娠歴が1回以上ある女性に対して、妊娠初期後期から毎日低用量アスピリンを投与することを推奨しています。妊娠中の毎日の低用量アスピリン使用は安全であると考えられており、使用に関連して重篤な母体または胎児の合併症、あるいはその両方が発生する可能性は低いとされています。妊娠高血圧腎症のリスクが高い女性には、低用量アスピリン(81mg/日)の予防投与が推奨され、妊娠12週から28週(最適には16週以前)に開始し、出産まで毎日継続すべきとしています。低用量アスピリンの予防は、妊娠高血圧腎症のいくつかの中等度の危険因子のうち1つ以上を持つ女性に対して検討すべきとしています。妊娠高血圧腎症のリスクを有する女性は、1つ以上の高リスク因子(妊娠高血圧腎症の既往歴、多胎妊娠、腎疾患、自己免疫疾患(SLEや抗リン脂質抗体症候群など)、1型または2型糖尿病、慢性高血圧)の存在、または複数の中等度リスク因子(初産、母体年齢35歳以上、BMI 30以上、妊娠高血圧腎症の家族歴、社会学的背景、自身の低出生体重、10年以上の間隔があいた妊娠、その他の周産期合併症の既往)の存在に基づいて定義されています。妊娠高血圧腎症の高リスク因子がない場合、現在のエビデンスでは、初期流産、胎児発育不全、死産、早産の予防のために低用量アスピリンを予防的に使用することは支持されていません。

≪推奨事項≫

  • 妊娠高血圧腎症のリスクが高い女性には、低用量アスピリン(81mg/日)の予防投与が推奨され、妊娠12週から28週の間(最適には16週以前)に開始し、出産まで毎日継続すべきです。
  • 低用量アスピリンの予防は、妊娠高血圧腎症のいくつかの中等度の危険因子のうち1つ以上を持つ女性に対して検討すべきです。
  • 低用量アスピリンの予防投与は、妊娠高血圧腎症の危険因子がない場合、原因不明の死産の経験があるという理由だけでは推奨されません。
  • 低用量アスピリンの予防投与は、妊娠高血圧腎症の危険因子がない場合、胎児発育制限の予防には推奨されません。
  • 低用量アスピリンの予防投与は、妊娠高血圧腎症の危険因子がない場合、早産の予防には推奨されません。
  • 低用量アスピリンの予防投与は、妊娠初期喪失の予防には推奨されない。

ブログ記事まとめ〜不育症〜(2021年4月現在)

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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