妊娠中の低用量アスピリン使用について②

妊娠中のアスピリン使用が安全であるとは記載されていますが、内服される以上リスクがゼロであることはありません。内服することによるメリット・デメリットを考慮しメリットが大きいという判断をした場合のみ内服を検討すべきだと考えています。不妊施設と周産期施設が異なる施設であることが多いため、患者様が双方の医療者の意見の食い違いに苦しみどうして良いか迷うことも少なくないと感じています。
妊娠中の低用量アスピリン内服のリスクについてご説明させていただきます。

①母体へのリスク

母体リスクの議論の焦点は「出血」に関することです。
無作為化比較試験の大半は、妊娠中の低用量アスピリンによる出血性合併症の増加を認めていません。妊娠高血圧腎症予防のための低用量アスピリンに関する米国予防医療専門委員会の報告書では、胎盤剥離(11試験[23,332人の女性]、RR:1.17、CI:0.93-1.48)、産褥出血(9試験[22,760人の参加者]、RR:1.02、CI:0.96-1.09)、または平均出血量(5試験[2,478人の女性])のリスク増加は認められていません。
妊娠していない成人における長期の毎日のアスピリン使用(300mg/日未満を5年以上)は消化管出血および脳出血のリスク増加を示す報告、妊娠高血圧腎症予防を目的とした妊娠中に低用量アスピリンを投与した1つのRCTでも輸血リスクがわずかに増加した(4.0%対3.2%)という報告もないわけではありません。

②胎児のリスク

妊娠高血圧腎症予防のために低用量アスピリンを使用した試験のいくつかのシステマティックレビューでは、先天性異常のリスクは増加しないとしています。しかし、妊娠中のアスピリン使用が胎児の腹壁破裂に関連性があるのではないかという懸念が残っています。5つのケースコントロール研究を含むメタアナリシスでは、腹壁破裂のないマッチドコントロールと比較して、腹壁破裂の胎児を妊娠する女性にはアスピリン使用歴が2倍多いことが示唆されています。しかし、バイアスが多く現在のところ結論は出ていません。
妊娠28週以降にアスピリン投与することで、胎児動脈管早期閉鎖が危惧されていましたが、低用量アスピリン(60〜150mg)であれば、胎児動脈管早期閉鎖とは関連しないことが報告されています。
最新のコクラン・メタアナリシスでは、妊娠後期(27週~40週)の母親の低用量アスピリン摂取に関連した新生児頭蓋内出血(10試験[26,184人の乳児])やその他の新生児出血性合併症(8試験[27,032人の乳児])のリスク増加は認められませんでした。

③妊娠中の低用量アスピリン内服開始のタイミング

初期流産予防を目的とした低用量アスピリン内服を検討した臨床研究を除いて妊娠高血圧腎症予防という観点での臨床研究に限ると、妊娠12週から28週の間に低用量アスピリン内服を開始しています。妊娠12週以前に低用量アスピリンを服用した場合の妊娠高血圧腎症に対する母体への有益性や胎児への影響はわかっていません。
一部の報告では妊娠12-16週以前に治療を開始した場合にのみ最適な結果を報告しています。45の無作為化試験のデータをまとめた最近のメタアナリシスでは、低用量アスピリンを16週以降に開始した場合、妊娠高血圧腎症の減少は軽度に留まりましたが(RR:0.81; CI:0.66-0.99)、16週以前に開始した場合、重症妊娠高血圧腎症(RR:0.47; CI:0.26-0.83)および胎児発育抑制(RR:0.56; CI:0.44-0.70)の減少が優位に認めました。

低用量アスピリンの中止時期に関して研究プロトコルは様々で、妊娠36週で低用量アスピリンを中止するものや、出産まで低用量アスピリンを継続するものなどがあります。中止時期と母体や胎児の過度の出血との関連性は認められていません。

これらのことも踏まえていますが、私個人の見解としては「不妊施設で把握していることは、これまでの病歴と不妊・不育治療歴に限ります。周産期施設では、その後の胎児と母体の状況が更に加わりますので、現在 低用量アスピリンを内服している理由と継続理由を周産期施設に丁寧に申し送り、内服中止時期の考えを記載し、周産期施設での患者様の状態に合わせて周産期施設の主治医と中止時期などをご相談いただくことがベストなのでは?」と考えています。

~関連ブログ~
妊娠中の低用量アスピリン使用について①
ブログ記事まとめ〜不育症〜(2021年4月現在)

文責:川井清考(院長)

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