卵巣刺激後は全胚凍結か新鮮胚移植かどちらを選ぶべきなの(2021年コクランレビュー)
現在までの論文を含めた2021年度最新のコクランレビューを紹介いたします。体外受精を受けている女性を対象に、従来のIVF/ICSI戦略と比較して、フリーズオール戦略の有効性と安全性を評価することを目的に調査されています。
≪論文紹介≫
Tjitske Zaatら. Cochrane Database Syst Rev. 2021 DOI: 10.1002/14651858.CD011184.
Cochrane Gynaecology and Fertility Group Trials Register,CENTRAL,MEDLINE,Embase,PsycINFO,CINAHL,および開始から2020年9月23日までの2つの進行中の試験登録を検索しました。
IVFまたはICSIを受けている女性を対象に、「全胚凍結戦略」と「新鮮胚移植実施戦略」を含む無作為化対照試験を対象とし、主要評価項目は累積出生数と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、副次評価項目は継続的妊娠率、臨床的妊娠率、妊娠までの期間、周産期・新生児の結果としました。
結果:
システマティックレビューでは15件、メタアナリシスでは8件、合計4712名の女性を対象としました。全体的なエビデンスの質は中程度から低い傾向にありました。
「全胚凍結戦略」と「新鮮胚移植実施戦略」では、累積出生率にほとんど差がないと考えられます(オッズ比(OR)1.08、95%CI 0.95~1.22、I2=0%、8件のRCT、4712人の女性、中等度の質のエビデンス)。「新鮮胚移植実施戦略」による累積出生率が58%の場合、「全胚凍結戦略」による累積出生率は57%~63%でした。
「新鮮胚移植実施戦略」と比較して、「全胚凍結戦略」では女性のOHSS発症が少ない可能性があります(OR 0.26、95%CI 0.17~0.39、I2 = 0%、6つのRCT、4478人の女性、低質エビデンス)。これらのデータは、「新鮮胚移植実施戦略」によるOHSS率が3%の場合、「全胚凍結戦略」によるOHSS率は1%でした。
累積継続妊娠率については、2つの戦略の間にほとんど差がありませんでした(OR 0.95、95%CI 0.75~1.19、I2 = 31%、4つのRCT、1245人の女性、中程度の質の証拠)。
「全胚凍結戦略」では胚移植が遅れるため、「新鮮胚移植実施戦略」の方が「全胚凍結戦略」よりも妊娠までの期間が短くなるように設計されています。
妊娠高血圧症候群のリスク(Peto OR 2.15、95%CI 1.42~3.25、I2 = 29%、3件のRCT、3940人の女性、低質エビデンス)、妊娠期間中の胎児が大きいこと(Peto OR 1.96、95%CI 1.51~2. 55;I2=0%;3件のRCT、3940人の女性;低質エビデンス)および出生児の出生体重の増加(平均差(MD)127g、95%CI 77.1~177.8;I2=0%;5件のRCT、1607人の単胎児;中質エビデンス)は、全胚凍結戦略」の後に増加する可能性があります。
≪私見≫
報告者の結論がとてもわかりやすかったので、少しわかりやすく書き換えさせていただきます。
累積出生率と継続妊娠率の観点から、一方の戦略が他方の戦略に比べて優位性をしめす根拠がないことがわかりました。「全胚凍結戦略」では、OHSSリスクが低下する可能性があります。過去の論文からは有意差は示されませんでしたが、累積出生率が同じであれば「新鮮胚移植実施戦略」の方が「全胚凍結戦略」より妊娠までの期間が短くなる可能性があります。
「全胚凍結戦略」では、母体の妊娠高血圧症候群のリスク、妊娠期間中の胎児が大きくなるリスク、出生児の体重が高くなるリスクが増加する可能性があります。「新鮮胚移植実施戦略」「全胚凍結戦略」の間で流産率、多胎妊娠率、早産率が変化するかどうかはわかっていません。
「全胚凍結戦略」をすすめる場合、やはりクリニック別に理由があるはずなので、患者様に提供義務があるのだと思います。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。