妊娠初期の性器出血と周産期合併症(Lancet総説2021から)

流産に対する総説がLancetという雑誌に3回に渡りシリーズで掲載されました。シリーズ1には流産のリスク、シリーズ2には流産リスクに対する対策、シリーズ3には反復流産に対して書かれています。
今回は「妊娠初期の膣からの性器出血が周産期合併症を上昇する」ことについて触れたいと思います。

≪論文紹介≫

Siobhan Quenby et al. Lancet. 2021. DOI: 10.1016/S0140-6736(21)00682-6
妊娠初期の膣からの性器出血と周産期合併症
妊娠初期の出血は16-25% (Farrell T, et al.1996)、絨毛膜下血腫は4-22% (Pearlstone M, et al.1993)に生じるとされています。
妊娠初期(妊娠12週未満)の性器出血は妊娠初期に医療機関にかかる一般的な理由です。5本の論文を今回の総説ではとりあげていますが、下記の2本にフォーカスをあてています。

(1)性器出血と伴う切迫流産兆候があると分娩前出血、早期前期破水、早産、子宮内胎児発育不全が上昇する。

L Saraswat, et al. BJOG. 2010.
DOI: 10.1111/j.1471-0528.2009.02427.x
超音波で妊娠し妊娠初期に性器出血・切迫流産を認め、妊娠継続した症例の妊娠中の予後をMEDLINE および EMBASE を用い検索し14件(n=64365)の研究からメタ解析を行いました。評価項目は母体評価項目(子癇前症/子癇または妊娠高血圧症症候群、分娩前出血、早期前期破水、分娩様式)、胎児評価項目(早産、低出生体重児、子宮内胎児発育不全、周産期死亡、アプガースコア、NICU入院、先天性異常)としました。
結果:
性器出血・切迫流産を認めた女性は、認めない女性と比較して、前置胎盤による分娩前出血(OR 1.62、95%CI 1.19-2.22)または原因不明の分娩前出血(OR 2.47、95%CI 1.52-4.02)の発生率が有意に高くなりました。また、早期前期破水(OR 1.78、95%CI 1.28-2.48)、早産(OR 2.05、95%CI 1.76、2.4)、子宮内胎児発育不全(OR 1.54、95%CI 1.18-2.00)の発生率も高くなりました。妊娠初期の出血は、周産期死亡率(OR 2.15、95%CI 1.41-3.27)および低出生体重児(OR 1.83、95%CI 1.48-2.28)の有意に高い割合と関連していました。

(2)妊娠初期に絨毛膜下血腫があると切迫流産兆候にかかわらず、吸引・鉗子分娩、帝王切開、妊娠高血圧症候群、子癇前症、胎盤剥離、胎盤分離異常、早産、子宮内胎児発育不全、胎児ジストレス、羊水混濁、NICU入室が上昇する。

Nagy S, et al.Obstet Gynecol.
DOI: 10.1016/s0029-7844(03)00403-4.
絨毛膜下血腫と診断された187名女性と、絨毛膜下血腫のない6,488名女性の周産期転帰を比較するために前向きの研究を行いました。
結果:
妊娠初期の絨毛膜下血腫の発生率は3.1%でした。胎盤となる部分の真後ろの血は、周産期合併症のリスク増加と関連していました。切迫流産の有無では周産期合併症の上昇にはつながりませんでした。妊娠初期に絨毛膜下血腫があることにより吸引・鉗子分娩(RR 1.9、95%CI 1.1-3.2)および帝王切開(RR 1.4、95%CI 1.1-1.8)、妊娠高血圧症候群(RR 2.1、95%CI 1.5-2.9)および子癇前症(RR 4.0、95%CI 2.4-6.7)、胎盤剥離(RR 5.6、95%CI 2.8-11.1)、胎盤分離異常(RR 3.2、CI 2.2、4.7)、早産(RR 2.3、CI 1.6、3.2)、子宮内胎児発育不全(RR 2.4、CI 1.4、4.1)、胎児ジストレス(RR 2.6、CI 1.9、3. 5)、羊水混濁(RR 2.2、CI 1.7、2.9)、NICU入室(RR 5.6、CI 4.1、7.6)のリスク上昇が認められました。

≪私見≫

私たちのクリニックの患者様も、妊娠初期に原因不明の性器出血が継続的につづく患者様の場合、大きめの周産期施設をご紹介するようにしています。どうしても不妊症・不育症・周産期は専門分野が異なる医師が担当することが多く共通して介在するリスクに関しては研究が遅れている分野でもあります。より安全な出産に到達できるよう不妊女性の妊娠について一番初めに接する産婦人科医として様々なリスク回避を提案していく必要があると思っています。

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文責:川井清考(院長)

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