流産歴がある妊娠初期の性器出血には黄体ホルモン膣剤(論文紹介)
イギリスの医療品質を向上させるために設立されたイギリス政府機関管轄下の特別医療機構であるNICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)は2021年の妊娠初期の管理に黄体ホルモンの有用性を追加しました。
≪論文紹介≫
Jacqui Wise. BMJ. 2021. DOI: 10.1136/bmj.n2896.
この新たな推奨は、流産予防のためのプロゲステロンに関するコクラン・ネットワーク・メタアナリシスに基づくものです。そのなかの大きなtrailのPRISM試験は、NICEが資金提供しイギリスの48病院4,153人の女性を対象に行われ、プロゲステロンは、流産の経験がない女性の流産率を低下させることはありませんでしたが、流産の経験が1〜2回の女性では流産が僅かに減少し、流産の経験が3回以上の女性では流産が大きく減少することがわかりました。
使用法はプロゲステロン膣剤400mgを1日2回、胎嚢が確認できた段階から妊娠16週まで投与することを推奨しています。
プロゲステロンですべての流産を防ぐことができるわけではありませんが、一部の流産で苦しむ女性には有益であることが何より価値のある情報だと思います。
効果があると推測されているのは下記の表のように過去の流産歴があり、妊娠初期に性器出血をみとめる女性です。過去の流産歴があるだけ、もしくは妊娠初期に性器出血があるだけの患者様へのプロゲステロン膣材投与の流産予防効果は今回の委員会の判断では根拠がないとされ、更なる検証が必要であると結論づけられました。
胎嚢確認から妊娠16週までのプロゲステロン膣剤投与の推奨女性
過去の流産歴あり | 過去の流産歴なし | |
妊娠初期性器出血あり | 推奨 | 根拠なし 今後の検証 |
妊娠初期性器出血なし | 根拠なし 今後の検証 | 適応なし |
国内ではデュファストン®️が切迫流産では保険適応で使用することができますが、プロゲステロン膣剤は適応外使用です。
周産期施設との連携をとりながら患者様に同意の上すすめる治療範囲だと考えています。
こちらも参考にしてみてください。
妊娠初期に出血した女性の流産予防(流産:Lancet総説2021を中心に)
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。