アメリカの体外受精データベースを用いた妊娠予測モデル(論文紹介)
「体外受精を始めたら自身はどれくらい出産できるの?」というテーマは、不妊治療を始めた早い段階で患者様にお伝えしておくべき内容だと思います。
ただし、国内のデータを含めて移植あたりの成績は記載されていても、採卵を1回した場合や、初回の採卵で妊娠に至らなかった場合の妊娠予測モデルは現在のところ国内には存在しません。
今回ご紹介するのはアメリカの体外受精データベースを用いた報告で、体外受精を始める前、もしくは体外受精1回目で妊娠に至らなかった場合の累積出生率を検討した論文です。
≪論文紹介≫
David J McLernon, et al. Fertil Steril. 2021.DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.09.015
アメリカの体外受精の90%を網羅しているSARTのデータベースを用いたコホート研究です。夫婦の配偶子を使用した体外受精を実施した88,614組を対象としました。
治療前モデルでは、体外受精の最大3回の完全サイクルにおける累積出生率を推定し、治療後のモデルでは、2回目と3回目の完全サイクルにおける累積出生率を推定した。1回の完全周期には、1回の卵巣刺激によるすべての新鮮および凍結胚移植が含まれます。また、1回目の出産は、単胎児と多胎児を含めて検討しました。
結果:
治療前の予測因子は、女性年齢(35歳 vs. 25歳、調整オッズ比0.69、95%CI 0.66-0.73)およびBMI(35kg/m2 vs. 25kg/m2、調整オッズ比0.75、95%CI 0.72-0.78)でした。治療後のモデルには、更に最初の完全周期の卵の数(15個vs. 9個、調整オッズ比1.10、95%CI 1.03-1.18)が含まれていました。前処理モデルによると、BMI 23.3kg/m2、男性不妊、AMH 3ng/mLの34歳の未経産女性が、体外受精の1回目周期で生児を得る確率は61.7%(3回周期の累積確率は88.8%)となります。生児が誕生しなかった場合、治療後モデルによると、2回目以降周期で1年後(年齢35歳、卵子数7個)に生児がうまれる確率は42.9%となります。すべてのモデルのC-statisticsは0.71から0.73でした。
追跡期間が短かったため、1回目周期で生児を出産できなかった女性のうち、51.6%が2回目の完全周期を開始しました。2回目の完全周期が失敗した女性のうち、3回目の完全周期を開始したのも同様の割合でした。一定数ドロップアウトしていますが、ビッグデータのため補完されていると考えられます。
≪私見≫
過去のIVFモデルは新鮮胚移植後の妊娠率を前提としているため、最近の成績と相関しない可能性があります。イギリスのHFEAデータを用いたMcLernonモデルは、今回の研究のモデルと同様に累積出生数を予測します。しかし、本研究のモデルとは異なり、英国版モデルにはBMIやAMHなどの重要な予測因子が含まれていません。
皆さんも試されてみてはいかがでしょうか。
https://www.sart.org
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。