プロラクチン(PRL)の軽度高値の判断は難しい

転院をされてきた患者様の中で、「プロラクチンが高くて薬を飲んでいます」という方が一定数いらっしゃいます。私自身、内服を指示することもありますが、一般的に内服するドパミンアゴニスト製剤であるカベルゴリンは目眩や便秘などの副作用を訴える方もおりますし、妊娠までずっと内服を続けることになりますので、軽度高値くらいの場合は薬剤性などの二次的にPRL上昇を起こす要因がないか問診のうえ、PRLと関係する甲状腺検査も同時に条件を整えて検査を実施し再評価を行うことを提案しています。排卵障害がない患者様の大半は内服を避けることができると考えています。実際の高PRL血症患者の頻度は一般人で0.4%、卵巣機能以上の女性では9-17%と言われていることから、排卵障害がなければほとんどの方が対象にならないと判断しています。

アメリカ生殖医学会が提案する「不妊症分野でやる必要がない10のこと」で、⑩定期的に排卵がある女性のルーチン検査としてプロラクチン(PRL)検査を行わないこと が含まれています。日本国内では不妊症患者の一次スクリーニングとして測定することが一般的です。アメリカ生殖医学会が提案するPRL検査を推奨しない理由はGlazener CMらの1987年の論文とKostrzak Aらの2009年の論文を引用しており、新しい知見が積み重なったわけではなさそうです。
プロラクチン自体、生理的変動が大きいので解釈が難しい点、また検査結果が高値を示しますが生理作用が低いマクロプロラクチンが存在することです。マクロプロラクチンはプロラクチンとIgGの複合体で免疫活性はありますが生物活性はほとんどありません。通常の検査では約10%の検体にあると言われています。患者血清と同じ量の25%ポリエチレングリコール(PEG)と混合させると、マクロプロラクチンはγグロブリンを共沈するため、遠心後の上清を測定するPEG法を診断に有用となります。
必要があればPEG法を実施することもありますが、まずは測定するときの条件を整えて実施することが有益だと考えています。例えば、PRLが高く出る時期として、①授乳期、②月経周期では黄体期・排卵期、③食後(30分以内では1.5倍-2倍)、④夜間・睡眠時、⑤運動・ストレス負荷時などが挙げられます。一度目に軽度高値の場合は、月経7日以内、起床後数時間経過してからの食事前の安静時に採血を推奨する報告もあります。

高PRL血症の原因疾患があり治療の必要がある場合もありますが、PRL軽度高値で排卵障害がない女性では再評価をおこない原因精査・治療が必要ない場合が大半であると考えています。海外ではPRLを測定しない流れになっていますので、軽度高PRL血症が不妊原因になるかどうかは国内のデータで示していく必要があるのかもしれません。
以下のブログもご参照ください
高PRL血症の診断について

図1:排卵障害がある高PRL血症の診断と治療(生殖医療必修知識より)

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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