不妊症分野でやる必要がない10のこと

「不妊症分野でやる必要がない10のこと」として取り上げられている記事を見つけました。2021年最新の不妊症の初期評価項目にも引用されています。

American Society for Reproductive Medicine. Choosing Wisely: 10 things physicians and patients should question. Available at: https://www.asrm. org/globalassets/asrm/asrm-content/learning–resources/choosing-wisely/ asrm-choosing-wisely-list-questions.pdf.

①原因不明不妊の評価目的にルーチンとして診断的腹腔鏡検査を行わないこと
不妊症患者では、問診票や初期スクリーニングなどから骨盤内病変が疑われる場合を除き、ルーチン診断的腹腔鏡検査を行うべきではありません。子宮卵管造影が正常、もしくは片側卵管が通過している女性では診断的腹腔鏡検査を行っても、今後推奨される治療法に変更はないとされています。

②不妊症のルーチン検査では、ハムスターテストなどの精子機能検査は行わないこと
これらの検査には大きなばらつきがあり、検査結果と治療成績の間にはほとんど相関関係がなく、費用対効果は悪いとされています。

③不妊症の評価のために、性交後検査(PCT)を行わないこと
性交後検査は再現性に乏しいです。異常値だった場合、より多くの検査や治療を行うことになりますが累積妊娠率の改善にはつながりません。

④一般不妊症評価にて血栓症検査をルーチン検査としないこと
血液凝固異常の既往歴がなく、家族歴もない人に血栓症検査を行うメリットはありません。検査をするには費用がかかりますし検査陽性であった場合、提案されている治療法にはリスクがあるため、原因があって初めて行うことが好ましいとされています。

⑤一般不妊症評価にて免疫学的検査をルーチン検査としないこと。
免疫学的要因は初期の胚の着床に影響を与える可能性がありますが、不妊症の一般不妊症評価として免疫学的検査を行うのに高く、妊娠結果を予測するわけではありません。
⑥無月経の初期評価として染色体検査をルーチン検査としないこと
40歳未満の女性でFSH高値の無月経であったり、性的発達障害を示唆する身体的所見があったりする場合には染色体検査を検討しますが、それ以外の無月経ではルーチン検査として行うことは推奨されません。

⑦妊娠を検討している男性には、テストステロン製剤を処方しないこと
テストステロン療法は、低アンドロゲン血症および性機能障害などの関連症状の治療として広く使用されていますが、精液所見を悪化させ不妊原因となることがわかっています。まれに不可逆性にテストステロン製剤を中断しても所見が改善しないことも報告されています。

⑧月経不順や異常性器出血の原因として閉経を予測するために40歳代の女性にFSHを検査しないこと
FSHは閉経を予測したり更年期が始まったことを診断したりするものではありません。

⑨不妊症のルーチン検査では、子宮内膜生検を行わないこと
子宮内膜生検によってわかる慢性子宮内膜炎は、一般的な妊娠の可能性を予測するものではありません。

⑩定期的に排卵がある女性のルーチン検査としてプロラクチン検査を行わないこと
日常的な不妊症評価でプロラクチンを測定することは一般的になっています。しかし、月経周期が正常で、乳汁分泌がない女性が、臨床的に有意なプロラクチン上昇を示すとは考えられません。そのため、ルーチン検査でプロラクチン値を測定してもメリットはなく、臨床的治療に影響を与えることはないと思われます。

≪私見≫

ほとんどの内容は日本国内でも実践されているのではないでしょうか。
⑩のPRL検査は国内のガイドラインの不妊症一次スクリーニング検査に項目として触れられているため、どうしても測定する習慣があります。ここは別途掘り下げて調べてみたいと思います。また、⑨は慢性子宮内膜炎の概念の浸透により行われる頻度が上がってきているはずです。
どのような検査を行う場合も、本当に必要かどうか医療者として疑問にもちルーチン検査として行っているだけという慣習を抜け出すべきなんだと感じています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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