反復流産予防のための2021年現在のEBM(Lancet総説2021)
流産リスクが高い女性(反復流産・不育症・習慣流産)における流産予防として、さまざまな介入がなされています。主な介入としてプロゲステロン、抗凝固剤、レボチロキシン、メトホルミン、hCG、免疫療法、微量栄養素補給、PGT-Aが議論されています。現在のところ、流産リスクが高い女性における流産予防に、エビデンス高く推奨できる治療はありません。プロゲステロン投与が反復流産患者の出生率を増加させることを示す中等度の質の根拠、レボチロキシンが甲状腺機能低下症(TSH濃度が4.0mIU/L以上)の女性の流産リスクを低下させるという低い質の根拠があります。
抗リン脂質抗体陽性の反復流産女性において、アスピリン+ヘパリン併用療法が出産率を高めるという低い質の根拠にとどまっています。
Arri Coomarasamy, et al. Lancet. 2021.DOI: 10.1016/S0140-6736(21)00681-4
①プロゲステロン
唯一、中等度の質の根拠があります。
過去のブログをご参照ください。
流産歴がある妊娠初期の性器出血には黄体ホルモン腟剤
妊娠初期に出血した女性の流産予防(流産:Lancet総説2021を中心に)
②抗凝固療法
後天性凝固異常(例:抗リン脂質抗体など)または先天性凝固異常(例:第V因子ライデン変異)の血栓素因は,深部静脈血栓症や反復流産などと関連します。低用量アスピリン,ヘパリン,その併用する抗凝固療法は4つのシステマティックレビューで評価されています。抗リン脂質症候群で反復流産女性において、低用量アスピリン+ヘパリン併用療法は低用量アスピリン単独と比較して流産率を低下させ(RR, 0.48、95%CI, 0.32-0.71、低い質の根拠)、出生率を増加させます(RR, 1.27、1.09-1.49、低い質の根拠)。
先天性凝固異常の女性や血栓症がない女性への低用量アスピリン+ヘパリン併用療法を支持する根拠はありません。血栓症がない女性の場合、低用量アスピリン療法が流産リスクを高める可能性を示唆する論文もあるので、ルーチンや経験使用を避けることを勧めています(Zhang T, et al. Medicine. 2015)。
③レボチロキシン
妊娠前および妊娠中の明らかな甲状腺疾患の治療は、流産などを減少させるため一般的に認知されていますが、潜在性甲状腺機能低下症が流産に関係しているという根拠も複数あったり、甲状腺機能異常がない甲状腺自己抗体陽性の女性でも流産のリスク因子となったりすることがわかっています。
現在のところ、妊娠前のTSH濃度 4.0mIU/L以上の潜在性甲状腺機能低下症に対してはレボチロキシン治療を有効であるとされています(低い質の根拠)。
妊娠前のTSH濃度 2.5〜4.0mIU/Lの流産との関連性は更なる研究が必要とされています。
甲状腺抗体陽性だけれど甲状腺機能が正常な女性に対するレボチロキシン投与の流産減少への有益性は認められていません。
④メトホルミン
インスリン抵抗性を認め高インスリン血症状態であるPCOS女性に対するメトホルミン治療は妊娠予後を改善できる可能性があります。
4つの小規模で質の低い研究のシステマティックレビューでは、メトホルミンによる流産率には差がありませんでしたが出生率向上を認めています。
メトホルミンを妊娠初期に開始するPregMet2試験62のデータを含む個々の患者データのメタ解析では、メトホルミン群では397人中18人(5%)が後期流産であったのに対し、プラセボ群では399人中40人(10%)が後期流産でした(RR, 0.43; 95%CI, 0.23-0.79; p=0-004)。
⑤ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG投与)
hCGはプロゲステロン産生および胚着床に重要です。反復流産女性を対象としたhCG治療に関する5つの無作為化対照試験のシステマティックレビューでは、流産の減少が認めています(RR 0.51;95%CI, 0.32-0.81)。このシステマティックレビューには質が低い論文が2本含まれているので現在のところ推奨事項とは考えられていません。
⑥免疫療法
免疫調節の機能障害が流産の原因であると考えられています。ナチュラルキラー細胞濃度の上昇、異常サイトカイン、抗リン脂質抗体やその他の自己抗体の存在など、様々な免疫学的マーカーが流産と関連しています。
3つのシステマティックレビューでは、プレドニゾロンの経口投与、免疫グロブリンの静脈内投与、リンパ球免疫療法、trophoblast membrane免疫療法などの免疫学的介入が評価されていますが、いずれも流産の減少や出生数の増加とは関連していませんでした。
⑦微量栄養素
ビタミンは代謝や生殖機能において必要な必須栄養素であり、特に抗酸化作用のあるビタミンは、流産リスクを低減する手段として研究されています。
3つのシステマティックレビューでは、ビタミンA、C、E、葉酸、鉄などの微量栄養素の流産抑制効果が評価されていますが、いずれの方法も流産のリスクを減少させるという根拠はありませんでした。
⑧子宮奇形に対する外科的介入
子宮異常の外科的治療(特に子宮中隔)は議論の対象となっていて現在無作為化試験が実施されています(TRUST試験)。いまのところ、結論はでていません。
⑨着床前遺伝子スクリーニング
2つのシステマティックレビューでは、反復流産の女性を対象としたPGT-Aが検討されています。現在のところ、支持する論文がまだまだ少ない状況です。
≪論文紹介≫
流産を繰り返している患者を対面すると、「できることは全部やる!」という気持ちに臨床医としては至ってしまいます。それが医療として正しいかどうか、いつも現在の根拠とその後の最新知見と照らしあわせ、患者様との個別化医療を検討する必要があります。治療提供することだけが正義ではなく意思決定支援をするうえで、根拠がないものに対しては既に否定されていることか、今後の検討課題なのかを見据えて情報提供する必要があると思います。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。