天然型黄体ホルモン経口薬は体外受精治療に適応される?

更年期障害および卵巣欠落症状に対する卵胞ホルモン投与時の子宮内膜増殖症の発症抑制に、2021年、日本国内でも天然型黄体ホルモン経口薬(エフメノ®️カプセル100mg)の製造販売承認がおりました。
天然型黄体ホルモン経口薬ときくと、すぐに体外受精のホルモン補充で使えないかと考えてしまうのは生殖医療医の宿命ですが、今回はあまり期待できなさそうです。天然型黄体ホルモン経口薬はプロゲステロン経腟投与や筋肉注射と比較して有効性が低いこと(F L Licciardi, et al. Fertil Steril. 1999、S Freidler, et al. Hum Reprod. 1999)、傾眠傾向が高いことが理由のようです。

プロゲステロン経腟投与に比べて有効性が低いことの一つの要因は、1日3回投与だと血清中プロゲステロン濃度が維持できない点が理由として考えられています。
絶食時にエフメノ®️カプセル200mgを単回投与でのCmax(ng/mL) 34.12±16.68、AUC(ng/hr/mL)229.8±74.72、tmax(hr) 2.29 ±0.96、t1/2(hr)13.23±2.68であり、経膣剤のように安定動態にはなりません。

次に副作用です。
1日90mgのプロゲステロンゲル剤と300mgの天然型黄体ホルモン経口薬を体外受精の黄体補充で比較したところ、天然型黄体ホルモン経口薬は強く眠気を訴え、性欲減退、性交疼痛、イライラを訴える傾向がありました。

  Day0 Day4 Day8 Day12
プロゲステロンゲル剤90mg 15% 28% 21% 26%
天然プロゲステロン経口薬300mg 17% 47% 47% 44%

表:眠気の割合(J L Pouly, et al. Hum Reprod. 1996. DOI: 10.1093/oxfordjournals.humrep.a019054)

天然型黄体ホルモン経口薬の不活性代謝物はGABA受容体ニューロンの特定部位に結合し、ベンゾジアゼピン系の鎮静作用と共通しているようです(Arafat E L, et al. Am. J Obstet. Gynecol. 1988)

確かに、妊娠初期に性器出血にプロゲステロン投与の有用性を示した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験でも経腟投与400mg/日で行われています(Arri Coomarasamy, et al. N Engl J Med. 2019. DOI: 10.1056/NEJMoa1813730.)。
これらのことを考えると、現段階での天然型黄体ホルモン経口薬の使用はデュファストン®️、ルトラール®️、そのほかの経膣プロゲステロン製剤に代わるものではなさそうです。

文責:川井清考(院長)

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