NKp46発現は免疫学的反復流産のマーカーになる?(論文紹介)

NK細胞の調節異常(NK細胞の絶対数の異常および構成比率の異常、あるいはレセプター発現やサイトカイン産生異常、遺伝子発現異常)が妊娠の成立、維持における免疫系の関与、特に N K 細胞の関与はほぼ確立 された概念となっています。
Natural cytotoxicity receptor(NCR)は、NK細胞に発現するレセプターのうち、活性性レセプターとして知られています。NCRは、NKp46、NKp30、NKp44が知られており、NKp46とNKp30は活性化および非活性化NK細胞に発現し、NKp44は活性化NK細胞にのみに発現するとされています。 また NKp46 と NKp30 は細胞傷害のみではなくサイトカイン産生に関与します。
サイトカインに着目すると、NK細胞には2つのタイプがあります。IFN-γ や TNF-α などの炎症性サイトカインを産生する NK1 細胞と、IL-4 や IL-10 などの抗炎症性サイトカインを産生する NK2 細胞です。NK1 シフト(NK1細胞割合が高くなること)は、体外受精および胚移植後の反復流産および反復着床不全女性で黄体期に起こっていることが報告されていますが、まだまだNK1シフトをとらえるマーカーは数多くありません。今回NKp46発現に着目した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

免疫異常のある反復流産女性では、脱落膜NK細胞におけるNKp46発現の低下とNK1シフトが認められました。NKp46の発現は免疫学的異常の反復流産マーカーとなる可能性があります。

≪論文紹介≫

Mayu Yamamoto, et al.  Reprod Med Biol. 2022 Jul 12;21(1):e12478.  doi: 10.1002/rmb2.12478.

NKp46は、細胞傷害性、サイトカイン産生に関与しているとされていますが、妊娠中の脱落膜NK細胞に対するNKp46の影響を評価し、反復流産女性の免疫学的異常のマーカーとなり得るかどうかを検討することを目的としました。
脱落膜NK細胞のNKp46発現と細胞内サイトカイン産生をフローサイトメトリー解析で評価しました。核型正常妊娠を流産した反復流産女性11名、核型異常もしくは遺伝子検査を行わなかった反復流産女性20名、医学的理由もしくは胎児選択色体異常で人工妊娠中絶を行った対照女性12名のNKp46+ 脱落膜NK細胞の比率を分析しました。
結果:
NKp46+およびNKp46bright 脱落膜NK細胞比率は,核型正常妊娠を流産した反復流産女性では,対照女性に比べ有意に低くなりました。NKp46bright 脱落膜NK細胞は脱落膜NK細胞のNK1/NK2比と有意な相関がありました。ROCカーブで免疫異常を疑う女性のカットオフをみていると、NKp46+脱落膜NK細胞比率が低い女性ではNK1/NK2比が優位に高くなりました。

≪私見≫

NK細胞は、妊娠の成立と維持のために分泌期と妊娠初期に劇的に変化し、CD56受容体の蛍光染色の強度からCD56dim細胞とCD56bright細胞に分類されます。子宮NK細胞の約90%は、主にサイトカイン産生に関与するCD56bright細胞であるのに対し、末梢血NK細胞の約90%は、細胞傷害に関与するCD56dim細胞であるとされています。末梢血と子宮内膜のNK細胞構成比の違いや測定時期による違いなどから標準化した検査には至っておりませんが、反復着床不全・反復流産の原因を追求したときにはいきつく検査となってくると考えられます。現在当院では兵庫医科大学と連携しNK細胞の評価を行うようにしています。

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文責:川井清考(院長)

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