体外受精に対するイントラリピッド治療のオーストラリアでの成績(論文紹介)

亀田IVFクリニック幕張では、兵庫医科大学と連携しイントラリピッド治療、免疫グロブリン治療を行なっています。末梢血NK細胞異常が体外受精着床不全や不育症の免疫因子マーカーとして有用かどうかは是非がわかれますが、RCTにて反復流産と末梢血NK細胞高値を認める女性154名を対象に免疫グロブリン治療とイントラリピッド治療を比較したところ、同等に高い妊娠率が報告されています(Mengら、2016)。
免疫グロブリンに比べてイントラリピッドは安価であり、副作用もほぼないためイントラリピッドの有用性が検討されています(不育症・着床不全に対するイントラリピッドは効果があるのか)。
反復着床不全もしくは流産既往患者に対してイントラリピッドの有用性を検討した報告をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Romy Ehrlich, et al. Fertility & ReproductionVol. 01, No. 04, pp. 154-160 (2019)

2014年10月から2016年7月にオーストラリアの2生殖医療施設にて反復着床不全もしくは流産既往93名に対してイントラリピッド投与をおこなった場合の妊娠転帰と有害事象を確認しました。
末梢血ナチュラルキラー(pbNK: peripheral blood natural killer )細胞の高値は、CD56dimCD69+リンパ球が全リンパ球の18%以上を占める、もしくは12×106/mL以上と定義(Kingら、2010;Sacksら、2012)。pbNK細胞が12~18%を境界域と定義しました。子宮ナチュラルキラー(uNK)細胞高値は、CD56免疫陽性染色細胞の割合が75パーセントタイル以上であると定義(Russell ら、2011)。
イントラリピッドプロトコル
イントラリピッド20% 100mLを500mLの通常生理食塩水で希釈したものを3~4時間かけて点滴静注しました。
施設Aでは、月経周期5-9日目に投与され、妊娠判定時に陽性であれば再度投与しました。施設Bでは、新鮮胚移植の場合は採卵時に、凍結胚移植の場合は胚移植時にイントラリピッドを投与し、妊娠判定時に陽性であれば再度投与しました。
臨床妊娠率40.0%、体外受精実施した年齢をマッチさせた対照群651名の臨床妊娠率35.0%と比較して、有意差は認められませんでした。イントラリピッド投与群では流産率35.7%でした。ほてり以外、有害事象は認めませんでした。
移植あたりの妊娠率
末梢血NK細胞正常群 23.1%(n=13)
梢血NK細胞境界群 50.0%(n=32)
梢血NK細胞高値群 63.6%(n=11)
妊娠陽性あたりの出産率
末梢血NK細胞正常群 33.3%(n=3)
末梢血NK細胞境界群 66.7%(n=15)
末梢血NK細胞高値群 86.0%(n=7)

≪私見≫

生殖医療ガイドライン2020でも反復着床不全に対して下記CQがあります。
CQ35 反復着床不全にタクロリムス・LDA等の免疫療法は有効か? 危険性は? タクロリムス・LDA等は不妊治療に有効か?

  1. 反復着床不全に対する低用量アスピリン・グルココルチコイドによる治療は有効である可能性がある。(推奨度C)
  2. 反復着床不全に対する治療として、ヘパリン・タクロリムス・ヒドロキシクロロキン・免疫グロブリン・脂肪乳剤・TNF阻害薬などの使用が考慮される。(推奨度C)

ASRMガイドラインでは、体外受精を施行する症例に対してイントラリピッドを投与する十分なエビデンスがない(Practice Committee of ASRM. Fertil Steril. 2018)、カナダの着床不全ガイドラインでもイントラリピッド治療は研究目的に限定されるべきである(Shaulov T, et al. Reprod Biomed Online.2020)とされているため、更なる検討をおこないながら検証していく必要があります。
当院でも臨床研究を通し複数の免疫療法を行なっていますが、どの治療を優先的に行っていくかは今後成績をみながら検討していきたいと思います。

文責:川井清考(院長)

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