不育症・着床不全に対するイントラリピッドは効果があるのか。

「イントラリピッドを静脈内投与すると、着床不全の生児出生率が高まるのか? 」という問いかけは私たちの中でも、ずっと臨床提供するかどうか悩ましく今まで躊躇してきた部分でした。理由は子宮内NK細胞が高い人が適応と言われていますが、血中NK細胞とは関連がないという報告もあり、検査方法が定まっていない点、測定したとしても有用なカットオフ値を持ち合わせていない点などからです。
2021年に入り、他大学様と連携をさせていただきイントラリピッド治療の導入を開始いたしましたのでブログで取り上げさせていただきたいと思います。
下記論文を参考にさせていただいています。(この論文は少しイントラリピッド治療推奨派の人が書いておりますが・・・。)

≪論文紹介≫

Carolyn B Coulam. Am J Reprod Immunol. 2021 DOI: 10.1111/aji.13290
イントラリピッド20%は、静脈内投与用に調製された無菌の脂肪乳剤です。
大豆油20%、卵黄リン脂質1.2%、グリセリン2.25%、水76.5%で構成されています。大豆油の脂肪酸成分は、リノール酸44%~62%、オレイン酸19%~30%、パルミチン酸7%~14%、リノレン酸4%~11%、ステアリン酸1.4%~5.5%です。主要な脂肪酸成分はリノール酸です。このリノール酸が免疫調整に寄与している論文が増えてきています。イントラリピッドがNK機能を抑制するメカニズムは明らかになっていませんが、脂肪酸の作用はPPAR、GPCR、CD1Rなどの受容体を介して行われることが証明されています。

着床不全のための免疫療法は様々ありますが、その一つにイントラリピッドの静脈内投与があります。イントラリピッド治療により着床不全が改善する可能性がある患者さまはNK(ナチュラルキラー)細胞が上昇している場合と考えられています。末梢血NK細胞と子宮内NK細胞は関連があるという報告、全く関連しないという報告があります。末梢NK細胞と子宮NK細胞は、表現型も機能も全く異なります。
子宮NK細胞は、細胞傷害活性はほとんどありませんが、サイトカイン、特に血管新生を促進するサイトカインの豊富な供給源であり、栄養膜細胞の浸潤や血管新生の制御に関与している可能性があるとされています。イントラリピッドは、末梢血NK細胞と子宮内NK細胞の両方でNK細胞密度を抑制することが示されています。
ただし、どのような患者にどのような検査方法でイントラリピッドの適応を調べるのかが課題となっています。報告者らは子宮内膜生検によるDecidualization Score(IL15とNKの測定値を含む)で検討されていて、やはり子宮内膜でのNK細胞が必要と考えているのかもしれません。

着床不全に用いるイントラリピッドの使い方は定まっていません。20%イントラリピッド溶液4~100mlを投与される方が多くなっています。(日本でおこなわれている場合 250ml程度使用することもあります。)
投与による副作用はイントラリピッド高張液のため静脈刺激がおこり血栓性静脈炎を引き起こすことがあります。低い副作用として、呼吸困難、チアノーゼ、アレルギー反応、高脂血症、凝固性亢進、吐き気、嘔吐、頭痛、顔面紅潮、体温上昇、発汗、眠気、胸や背中の痛み、目の上の軽い圧迫感、めまいなどが少数ですが報告されています。
しかし、不妊症患者さまのように若年で頻回に投与しない場合での副作用報告はあがっていません。

妊娠率は、NK活性上昇を伴う着床不全、反復流産既往ともにイントラリピッド治療による上昇するという論文が多数ですが、否定的な論文があるのも事実です。今後の課題は、イントラリピッド治療適応をきめる検査方法の選定、そして、その検査を用いた大規模スタディが必要だと思っています。

  対象 デザイン 対象 成績 有意差
EI-Khayat
(2015)
着床不全
(203症例)
RCT 無治療 33% vs 13% 有意差あり
0.001
Singh
(2019)
着床不全
(102症例)
RCT 食塩水 28% vs 10% 有意差あり
0.024
AI-Zebeidi
(2020)
着床不全
(142症例)
RCT 無治療 18% vs 14% 有意差なし
Ehrlich
(2018)
着床不全
(744症例)
観察 無治療 40% vs 35% 有意差なし

表:イントラリピッド治療と無治療を比較した最近の論文

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張