不育症の概念・頻度・リスク因子・問診事項

不育症管理に関する提言2021が改訂されました(令和2年度厚生労働科学研究費補助金 研究代表者: 苛原 稔)。こちらは、今までの不育症の概念や検査などを臨床に則した形で提案・まとめてくれています。

●概念:不育症の提言2021引用

2回以上の流死産の既往がある場合を不育症(recurrent pregnancy loss)とする。異所性妊 娠や絨毛性疾患(全胞状奇胎、部分胞状奇胎)は流産回数に含めない。生化学的妊娠 (biochemical pregnancy (loss))も流産回数には算定しない。すでに生児がいる場合でも、2回以上の流死産の既往があれば不育症に含める。なお、この場合の流死産は連続していなくてもよい。本提言では、臨床的流死産歴が2回未満でも次回妊娠における流死産の リスクが高く原因検索の動機付けとなる状態を「不育症」の概念に含める。

≪川井より解説≫

日本産科婦人科学会は不育症を「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、妊娠は成立するが流産や死産を繰り返して生児をえられない状態」と定義しています。ただ、このままだと、どのような患者さまが対象になるかがわかりづらく、もう少し具体的に記載されたのが上記の概念となります。
今回のワーキンググループの素晴らしいポイントは、以下の二つです。

  1. 連続していなくても流産回数の合計で不育症の診断をつけてよくなったこと
  2. 次回妊娠における流死産のリスクが高く原因検索の動機付けとなる状態を不育症の概念に含めたところ

このことにより偶発的に見つかった不育症の原因に対して複数回流産したら治療介入を考えましょうという方針ではなく、流死産が複数回なくともリスクが高い場合は介入を検討することを患者様とご相談しやすい環境となりました。
生化学妊娠についてもディスカッション事項では触れられていて、今回の提言では概念としては見送られましたが、「生化学妊娠(化学流産)を3回以上反復する場合を反復生化学妊娠として不育症に準じた原因検索を行う。」「報告書などに臨床妊娠・分娩・流産回数だけではなく生化学妊娠〇〇回と付記すること」ことを提案されています。

●頻度:不育症の提言2021引用

流産は 10~15%の頻度で生じる。2回以上の流産の頻度は、欧米では 0.8~1.4%、3回以上の流産既往の頻度は0.8%とされている。本邦では、2回以上の流産既往は4.2%、3回以上の流産既往は0.88%と報告されており、欧米より高値となっている。女性の年齢分布 から有病者数を計算すると,日本では 2 回以上の流産既往歴のある不育症が1年あたり 約 3.1万人発生し、うち 6,600人が 3回以上の流産歴を持つ不育症と推定される。不育症 の症例は毎年蓄積していくので,正確なでータはないが,日本における不育症の患者数 は少なくとも 30~50万人程度と推定することもできる。

≪私見≫

当院でも患者の主訴や紹介をみていると不育症で来院される患者さまが増えてきているように感じています。不妊症と不育症は別個の状態として捉えるのが妥当と考えておりますが、一部オーバーラップする病態・治療もあると考えておりますので、周産期施設と連携し取り組めるように治療体制を整えております。

●不育症のリスク因子の頻度:不育症の提言2021引用

リスク因子 日本 海外
子宮形態異常 7.9% 12.6-18.2%
甲状腺機能異常 9.5% 7.2%
亢進症 1.6% -
低下症 7.9% 4.1%
夫婦染色体構造異常 3.7% 3.2-10.8%
 均衡型相互転座 3.0% 1.5%
 Robertson型転座 0.7% 0.3%
抗リン脂質抗体陽性 8.7% 15.0%
第XII因子欠乏 7.6% 7.4-15.0%
プロテインS欠乏 4.3% 3.5%
リスク因子不明 65.2% 43.0%

(不育症の提言2021より引用)
国内のデータは下記論文が参考文献のブログも参考になさってください。(日本での不育症検査・治療の実態
リスク因子不明には偶発的なもの、受精卵異常、その他の免疫因子などが含まれることが予想され、これらの原因詮索が様々な形で研究されています。

 

●問診事項

  • 年齢
  • 既往流産回数
  • 身長・体重・BMI
  • 喫煙歴 アルコール摂取歴 カフェイン摂取

≪川井より解説≫

(年齢)
女性年齢と流産の関係は本提言でも触れられています。ただし、男性年齢との関連性は報告されていないとしています。2020年12月アメリカ生殖医学会・泌尿器科学会の連名で反復流産の原因として男性疾患をルールアウトすべきだとしていますが、これはあくまで男性年齢ではなく男性生殖器疾患のルールアウトを推奨していることと誤解なさらないでください。
(既往流産回数)
流産既往回数が増すにつれ、次回妊娠での生児獲得率は減少することが示されていて、患者の年齢と既往流産回数から、次回妊娠での生児出産率を推定値としてまとめています(Lundら. Obstet Gynecol. 2012;119:37-43)。

  20-24歳 25-29歳 30-34歳 35-39歳 40歳-
3回 1.28 (0.78–2.11) 1.50 (1.15–1.96) reference 0.81 (0.60–1.10) 0.48 (0.26–0.89)
4回 1.93 (1.20–3.11) 0.99 (0.72–1.36) 0.95 (0.72–1.26) 0.67 (0.47–0.95) 0.88 (0.46–1.68)
5回 0.48 (0.18–1.29) 1.51 (0.92–2.48) 0.79 (0.53–1.18) 0.76 (0.50–1.17) 0.32 (0.10–1.00)
6回以上 予測できず 0.80 (0.49–1.30) 0.55 (0.34–0.88) 0.51 (0.29–0.91) 予測できず

初診時の年齢と過去の流産回数による初診後の生児出産のハザード比(95%信頼区間)について
(Obstet Gynecol. 2012より引用)
(身長・体重・BMI)
女性の肥満は流産の増加、妊娠合併症の増加にもつながるので食事指導や生活指導を行ないましょう。
(喫煙歴・アルコール摂取歴・カフェイン摂取)
喫煙・過度のアルコール摂取は、共に生児獲得率を低下させます。明確な基準はないですが、1週間に2~4回以上の飲酒は流産を増加させるとの報告が引用されています(Maconocbie ら. BJOG. 2007;114:170-186)。結果、喫煙・アルコールの過剰摂取は控えることが推奨されています。
カフェイン摂取 300mg/day 以上(コーヒー1日3杯以上)で流産が増加するとの報告もありますが、否定する報告もあります。必ずしもエビデンスレベルが高いわけではないですが、過度のカフェイン摂取は控えるように指導することが好ましいとされています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張