精液検査の運動率の評価方法はクリニックによって異なるの?

当院を受診される男性患者様で、他院でも精液検査を行ったことがある方は、「なぜ再度、精液検査を行う必要があるのですか?」と疑問を持たれる方がいらっしゃいます。私たちは、精液検査は多少の誤差はあっても、ある一定の再現性があると考えています。しかし、クリニックにより測定系が異なっていたり、検査を行う状況により影響を受ける可能性がゼロではないので、今後の治療方針を検討するうえで、自身のクリニックで精液所見を確認しておきたいというのが、再度精液検査を行わせていただく大きな理由です。

精液検査の目視でのおおまかな基準はWHO2010基準に従い測定されています。

精子運動性の分類について

運動性を評価するための簡単な分類方法として、5箇所以上の視野で200個以上の精子を(A)から(D)に分類することを3回行い平均値を測定値とすることが推奨されています。
(A) 速度が速く、直進する精子
(B) 速度が遅い、あるいは直進性が不良な精子
(C) 頭部あるいは尾部の動きを認めるが、前進運動していない精子
(D) 非運動精子
運動率は(A)+(B)/ (A)+(B)+ (C)+(D) 前進運動率は(A) / (A)+(B)+ (C)+(D)の割合で示しています。

最近では精子解析装置(computer aided sperm analysis; CASA)を用いて精液検査を行うことが一般的になってきています。日本でも複数の会社のCASAシステムが導入されていますが、現在のところ、SMASSQA-Vを置いている施設が大半なのではないでしょうか。亀田IVFクリニック幕張では開院当初はSQA-V、現在はSMASを導入しています。
CASA システムを用いることは手動で行う方法(従来の目視で行う方法)と比べて精度が高く、精子の運動学的の多数のパラーメーターを数値化出来る、といった利点を持っています。以前は、CASAシステムを用いた運動率は精子ではない細胞片を不動精子として認識する可能性があり参考にならないという時期もありましたが、現在は性能も向上してきています。私たちは、CASAシステムを用いて測定のうえで、目視でも違和感のある場合は確認し、ダブルチェックを行っています。

一番大事なのは、そのクリニックで測定した精液検査がクリニックの妊娠成績にどのように関与しているか把握した上で患者様に医療が提供されることだと感じています。
例えば先行論文をみていても運動率を中心に記載しているもの、前進運動率を中心に記載しているもの等、様々あります。
生殖医療の必修知識に掲載されている論文や、当院のブログ「人工授精(男性因子)を断念するタイミングを考える①―③」でとりあげた論文はほぼ全て運動率から総運動精子数を算出しています。(過去の論文でprogressive motile spermと書いていても論文の中を読んでいくと運動率があることが2000年以前の論文はほとんどです。)
今後、前進運動率にスポットを当てた論文もご紹介させていただきますが、当院では現在のところ、運動率に第一に着目し、判断に迷った場合前進運動率を加味した治療方法の選択とさせていただいています。
人工授精は「調整前総運動精子数」での成績のカットオフを、体外受精の媒精の選択基準は「調整後総運動精子数」を用いています。前進運動率を用いたカットオフ値も検討しましたが、採用には至っておりません。しかし、2016年開設以降の精子調整前-運動率、精子調整後-運動率、精子調整前-前進運動率、精子調整後-前進運動率を参考に運動率と前進運動率の乖離がある場合、調整前後で乖離がある場合などは注意をしながら治療にあたるようにしています。

2016-2021年の亀田IVFクリニックの精液検査運動率

2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年
精子調整後 運動率 74.25% 75.44% 77.04% 80.8% 81.01% 80.91%
精子調整前 運動率 39.85% 39.4% 36.86% 41.94% 40.25% 37.02%
精子調整後 前進運動率 63.4% 65.49% 72.83% 76.57% 74.03% 74.45%
精子調整前 前進運動率 24.9% 28.16% 31.06% 34.69% 30.87% 28.13%

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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