ファイザー社とモデルナ社のmRNAワクチンの精液所見に与える影響について報告がでましたのでご紹介させていただきます。

≪論文紹介≫

Daniel C Gonzalezら. JAMA. 2021.DOI: 10.1001/jama.2021.9976
マイアミ大学で行われたこの単施設の前向き研究で対象は18歳から50歳までの健康なボランティア（不妊症既往なし）としました。
①1回目のワクチン接種前　と、②2回目のワクチン接種から約70日後　に精液検査を実施しました。精液量、精子濃度、精子運動率、全運動精子数を評価しました。
2020年12月17日から2021年1月12日の間に、45名の男性（年齢中央値、28歳）がボランティアとして参加し、2021年4月24日に終了しました。
フォローアップは、2回目の投与から中央値75日後に実施しました。45人の男性のうち、21人（46.7％）がファイザー社ワクチン、24人（53.3％）がモデルナ社ワクチンを投与しました。

結果：
ワクチン摂取前後で精液所見の増悪はみられず、今回の症例に関しては精液量、濃度、運動率、運動精子数ともに増加傾向にありました（下表）。これはワクチンによって所見がよくなったという解釈ではなく、個人差の範囲内であると考えられています。
8名は、乏精子症（精液濃度：中央値 850万／mL［510-1200］）でしたが、7名は摂取後に正常値となり、一名は所見が同様のままでした。
ワクチン接種後に無精子症になった男性は認められませんでした。

	ワクチン接種前の精液所見	ワクチン接種後の精液所見
禁欲期間（日）	2.8（2-3）	3(3-4)
精液量（mL）	2.2(1.5-2.8)	2.7(1.8-3.6)
濃度（万個/mL）	2600(1950-3400)	3000(2150-4050)
運動率（％）	58(52.5-65)	65(58-70)
総運動精子数（万個）	3600(1800-5100)	4400(2750-9800)

※数値は中央値（四分位範囲）を記載しています。

≪私見≫

新型コロナワクチン（mRNAワクチン）接種後に精液所見の主要項目に有意な減少は認めませんでした。症例数が少ないこと、対照群がないこと、追跡期間が短いことなどの限界もありますが、新型コロナウィルス感染後は精液所見の増悪が認められる中（新型コロナワクチン感染後 回復した男性の精液所見は？（論文紹介））、新型コロナウィルスワクチン接種の重要性、そして不妊治療に影響するなどの誤解を解く上には十分な報告だと思っています。
なお、この論文はmRNAワクチンに関するもので、アストラゼネカ社やジョンソンアンドジョンソン社のウィルスベクターワクチンは対象となっていません。

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文責：川井清考（院長）

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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