新型コロナワクチン感染後 回復した男性の精液所見は?(論文紹介)

ヒト精液中のSARS-CoV-2の存在と、新型コロナウイルス感染(COVID-19)から回復した後のウイルス伝染や精液の質に対するその役割は、まだ明らかになっていません。以前のブログで、新型コロナウイルスが感染男性の精液中から見つかるをとりあげましたが、新しい報告がありましたのでご紹介させていただきます。
今回、新型コロナウィルス感染から回復した男性に対して精液検査の状態を確認しています。

≪論文紹介≫

M Gacci ら. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deab026
COVID-19からの回復が確認された男性43名(18~65歳)を対象に、前向きのクロスセクション研究を行いました。唾液、射精前の尿、精液、射精後の尿という4つの検体サンプルについて①SARS-CoV-2のゲノム検査、②定期的な精液検査、③精液中の白血球およびIL-8レベルの定量化を行いました。
結果:
COVID-19から回復した後、調査対象の男性の25%(11/43)が乏精子無力症、無精子症となりました。精液異常があった男性11名のうち、8名が無精子症、3名が乏精子症(精子濃度 200万/nl以下)でした。
33名(76.7%)の患者で、精液中のIL-8が高値となりました。乏精子無力症、無精子症はCOVID-19の重症度(ICU入院になった男性が自宅待機・ICU以外の入院患者より精液所見異常の割合が高くなりました。)と有意に関連しました(P < 0.001)。3人の患者(7%)が少なくとも1つのサンプル(唾液1つ、射精前の尿1つ、精液1つ、射精後の尿1つ)で陽性反応を示しましたがパートナーは問題ありませんでした。

≪私見≫

これまでも感染男性の精液中にウイルスゲノムが出現することは、エボラ出血熱やジカ熱でも報告されています。(Feldmannら, 2018)。また、HIVやムンプスウイルス、単純ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスでも、精液所見に異常を与えることが報告されています(Masaraniら、2006年、Garollaら、2013年、Garolla ら、2013)。

精巣ではACEやTMPRSS2が高発現していることから、COVID-19ウイルスが生殖腺に局在する可能性があります(Wang、 Xu, 2020)。
その他にもCOVID-19の活動性感染者に高ゴナドトロピン性性腺機能低下症の発症が認められたことが報告されていたり(Rastrelli ら, 2020)、感染により血清LHレベルの上昇、テストステロンとFSHが顕著に減少も報告されています(Ma ら、2020)。

今回のCOVID-19ウイルス感染後の精液所見異常は一般集団で報告されている割合より優位に高くなっています。今回の報告の限界はCOVID-19感染前の精液所見がわからないこと、また症例数が少ないことです。しかし、今回、無精子症であった8名の男性は全員、子供がいます(5人が1人、2人が2人、1人が3人)、乏精子無力症の男性3名は1人だけ子供がいないですが、2人は子供がいること(2人の子供)を考えるとCOVID-19感染・治療が契機となり悪化した可能性が考えられます。
また、精液所見の異常は継続的なものなのでしょうか。こちらの結論はでていませんが、今回の報告では体温の正常化後4週間で無精子症男性 1名、6週間で乏精子無力症男性 1名、他の9名の無精子症・乏精子無力症は少なくとも8週間後に検査されているので、比較的長期に障害が残る可能性が考えられます。

COVID-19ウイルスは精巣機能に直接的および間接的に影響を与える可能性があります。今回の患者の高い割合で見られたIL-8高値は、COVID-19感染治癒後の男性泌尿器の炎症状態の持続を意味しています。COVID-19感染からの回復後、少なくとも3か月後に精液検査を再評価する必要があると考えられます。

文責:川井清考(院長)

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