アメリカ・イギリス産婦人科学会の新型コロナワクチンに対する動向

国内でも新型コロナワクチン接種がすすんできましたね。
2021年6月現在、ファイザー・バイオンテック社製/モデルナ社製/アストラゼネカ社製が日本でも使用申請許可が下り、ジョンソン・アンド・ジョンソン社製の申請が始まったところです。
アメリカ・イギリス産婦人科学会の新型コロナワクチンに対する動向についてまとめてみました。日本産科婦人科学会の提言と併せてお読みください。

妊娠中の女性がワクチン接種をする理由は、以下が主な理由です。
①妊婦の重症化の抑制
②死産や早産のリスクの低減
③家庭内感染の減少
ワクチン接種をするしないにかかわらず、手洗い、物理的な距離を置く、マスクを着用するなどは引き続き必要です。
大きくわけてmRNAワクチンとウィルスベクターワクチンによって副作用、予防効果が少し異なってきます。2021年6月現在国内で接種を受けることができるのはファイザー・バイオンテック社製/モデルナ社製です。

妊娠しようとしている女性・授乳婦ともに新型コロナワクチン接種を止める必要はありません。前向きコホート研究によると、ワクチンを接種した妊娠中および授乳中の女性は、非妊娠中の対照者と同等の免疫反応を示しており、臍帯血や母乳からもワクチンで生成された抗体の存在を確認しています。
アストラゼネカ社のワクチンの妊娠中の懸念は報告されていませんが、ファイザー社やモデルナ社のワクチンに比べて、このワクチンの妊娠中の使用経験が少ないため、JCVI(イギリスのワクチン管理している委員会)はファイザー・バイオンテック社やモデルナ社を優先するように推奨しています。

不妊症との関連を結びつける科学的証拠もありません。動物実験でも生殖毒性はファイザー・バイオンテック社製/モデルナ社製/アストラゼネカ社製共に認めていません。

COVIDワクチンの副作用について

妊娠していない人の場合、新型コロナワクチンには、1~2日続く発熱や筋肉痛などの軽度で短期間の副作用があることが知られています。アレルギー反応や血栓症などの重篤な副作用の報告は、非常に稀です。

注射部位の発赤 倦怠感 悪寒 筋肉痛 関節痛 頭痛
モデルナ社 91.60% 68.50% 43.40% 59.6% 44.8% 63%
ファイザー・バイオンテック社 84.10% 62.90% 31.90% 38.30% 23.60% 55.10%
ジョンソン・アンド・ジョンソン社 48.60% 38.2% N/A 33.2% N/A 38.9%

1/20〜35万回摂取の頻度でアナフィラキシー反応が起こることがあります。
薬剤アレルギーやアナフィラキシー既往のある方で起こりやすくなっています。
mRNAワクチンの成分であるポリエチレングリコールが原因と考えられており、ポリエチレングリコールにアレルギーのある方は原則として接種できません。
ウィルスベクターワクチン接種後に血栓症を起こした事例が海外で報告されています。ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の病態によく似ており、50歳未満の女性で起こっている割合が高いことが特徴です。発生率は1/10万回摂取程度です。

V-safe妊娠レジストリ(アメリカでワクチン摂取後の行われているウェブ調査)によるワクチン摂取後の妊娠予後に対する調査(ワクチン摂取前後30日間に妊娠中の女性)

2021年6月7日時点で5,100人の妊娠した人が登録されています。
New England Journal of Medicine誌に掲載された妊娠期間が終了した827例の妊娠・新生児転帰と、2021年3月1日のACIP会議で発表された275例の妊娠合併症転機は以下の通りです。ワクチン接種により妊娠転機の悪化は見られていないと感じています。

全体頻度 V-safe登録による頻度
流産 (20週未満) 10-26% 15%
死産 (20週以降) 0.60% 0.10%
妊娠糖尿病 7-14% 10%
妊娠高血圧症候群 10-15% 15%
子癇発作 0.27% 0%
IUGR 3-7% 1%
早産 8-15% 9.40%
胎児奇形 3% 2.20%
SGA児 3.50% 3.20%
新生児死亡 0.38% 0%

 

≪余談1≫

新型コロナワクチン接種後の月経障害の報告(米国産婦人科学会)
ワクチン接種したばかりの人に、月経周期の一時的な乱れ(月経が重くなったり、月経周期が早くなったり遅くなったりすること)があったという報告があります。ワクチンが月経障害との関連性は報告されておらず、ストレスによる影響が高いと考えられています。接種のタイミングのために月経周期を調整したり、血栓リスクがたかいかな?と考えてピルを中断したりする必要はありません。

≪余談2≫

体外受精中の新型コロナワクチン接種について(英国産婦人科学会)
新型コロナワクチン接種は体外受精の治療中でも可能です。ただし、ワクチン接種後の数日間に軽微な副作用が出る可能性があることを考慮して、ワクチン接種のタイミングを検討したり、採卵や胚移植などを避けることも検討するのも一つの選択肢だと考えられています。
体外受精で免疫抑制療法を受けている場合でもワクチン接種によって感染症を引き起こすことはありません。免疫抑制療法はワクチンに反応して体内で産生される抗新型コロナウィルス抗体のレベルを低下させる可能性があるため、ワクチンの防御効果は低くなるかもしれません。免疫抑制療法が期間限定のものであればワクチン接種タイミングを遅らせるかなども検討してもよいのかもしれません。

ファイザー・バイオンテック社製のmRNAワクチン
:12歳以上の個人に対して、3週間間隔で2回接種(FDAより)
モデルナ社製のmRNAワクチン
:18歳以上の個人に対し、1ヶ月間隔で2回接種(FDAより)
アストラゼネカ社製のウィスルベクターワクチン:
:4~12週間間隔で2回接種(イギリスのJCVIは2021/5現在 40歳以下の妊娠を考える女性にはファイザー・バイオンテック社製/モデルナ社製を優先しいてる。)
ジョンソン・アンド・ジョンソン社製のウィスルベクターワクチン:
:20歳以上の個人に対し、1回接種(FDAより)

米国産婦人科学会
https://www.acog.org/clinical/clinical-guidance/practice-advisory/articles/2020/12/covid-19-vaccination-considerations-for-obstetric-gynecologic-care?utm_source=redirect&utm_medium=web&utm_campaign=int
英国産婦人科学会
https://www.rcog.org.uk/en/guidelines-research-services/coronavirus-covid-19-pregnancy-and-womens-health/covid-19-vaccines-and-pregnancy/covid-19-vaccines-pregnancy-and-breastfeeding/

 

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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