女性のアルコール摂取量と不妊の関係(論文紹介)
現在まで、不妊と飲酒の関係を肯定する報告が数多くあり、妊娠率に差がないという報告は少数派となっています。飲酒量のカットオフ値をどこに設定するか、様々な交絡因子をどのように除外するのかなど問題点は多くあります。
月経周期中の飲酒のタイミングと不妊の関係を示した論文は現在のところ方向がありません。アルコールは、排卵、着床のいずれにも複数障害となる可能性が考えられています(Mendelsonら、1989. Rossiら、2011)
月経周期中の飲酒のタイミングと不妊の関係を示した論文をご紹介させていただきます。
≪論文紹介≫
Anwar MYら.Hum Reprod. 2021.DOI: 10.1093/humrep/deab121
妊孕性に関する前向きコホート研究であるMount Sinai Study of Women Office Workers(MSSWOW)において1990年から1994年の間に追跡調査を行い、最大19カ月の追跡調査期間中、アルコール摂取量を毎日記録しました(N =413)。
参加者は19歳から41歳までの女性を対象とし、初回調査票に記載していただいた後、カフェインや喫煙などの他の因子も加えて、アルコール飲料の摂取量(ビール、ワイン、リカー類の1日あたりの飲用量)を記録してもらいました。
ビール360ml、ワイン150ml、リカー45ml(ここではウィルキーなどを指すのだと思います。)をアルコール1単位としました。月経周期中の1日あたりの平均アルコール摂取量は、月経周期中の総飲酒回数を、参加者がアルコール摂取量を記録した日数(0日を含む)の合計で割り、記録のない日(欠席日)は分母から除外したものです。
暴飲レベルとしてアルコール摂取(4単位/日以上)と定義しました。妊娠判定には毎月、尿検査を実施しました。月経周期は、Knaus-Ognio法(黄体期:次月経日前日から14日前、排卵期:次月経日の15-19日前、前月経開始日から次月経日の20日前)を用いて算出しました。離散生存分析法を用いて、月経周期の各相におけるアルコール摂取量のカテゴリーと出産能力との関連を推定しました。
結果:
月経中はアルコールと妊娠の関連はありませんでした。
黄体期では、中程度の飲酒(3〜6単位/週、出産可能性オッズ比(FOR)=0.56、CI:0.31、0.98)と大量飲酒(6単位以上/週、FOR = 0.51、CI:0.29、0.89)の両方が、非飲酒者と比較して、出産可能性の低下と関連していました。
排卵期における多量飲酒(FOR = 0.39、CI:0.19、0.72)が、同様に出産可能性の低下と関連していました。排卵前においては、多量の飲酒(6単位以上/週、FOR = 0.54、CI:0.29、0.97)が出産可能性の低下と関連していましたが、感度試験を行ったところ、この関連性は一貫していませんでした。
暴飲レベル(アルコール摂取 4単位/日以上)が1日増えるごとに、黄体期および排卵期において、それぞれ19%(FOR=0.81、CI:0.63、0.98)、41%(FOR= 0.59、CI:0.33、0.93)の出産可能性の低下と関連していましたが、排卵前の段階では関連性は認められませんでした。
アルコール摂取量/週 | 排卵前 | 排卵期 | 黄体期 | 月経周期あたり |
---|---|---|---|---|
0 | 基準点 | 基準点 | 基準点 | 基準点 |
1-2単位 | 有意差なし | 有意差なし | 有意差なし | 有意差なし |
3-6単位 | 有意差なし | 有意差なし | 妊娠率低下 | 有意差なし |
6単位以上 | 妊娠率低下 | 妊娠率低下 | 妊娠率低下 | 妊娠率低下 |
≪私見≫
過去に様々な論文がありますが、1万人近い女性が参加したアルコール消費と出産可能性に関する19の論文の最近のメタアナリシスでは、週7回以上の飲酒の出産リスク比は0.77(95%CI 0.61~0.94)と低下することを報告しています(Fan ら. 2017)。
今回の報告は男性側の飲酒歴などがとられておらず、症例数も数多くありませんが、多量の飲酒が妊娠確率低下の予測因子であることを示した先行研究を同じ結果であり、なおかつ月経周期によりアルコールが妊娠にあたえる影響が異なることを示した意味で新規制がある内容だと思います。
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文責:川井清考(院長)
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