反復着床不全の様々な免疫療法(論文紹介)

反復着床不全の評価、管理に関する研究は、反復着床不全自身明確な定義がないこと、また、胚移植には過去の報告であれば異数性胚の除外ができなかったことよりばらつきが多く、治療に関しても有効性の是非が定まっていません。しかし、免疫療法の有効性についての様々な報告が上がってきています。
これらのことをまとめた論文をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Turocy J, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.10.025

末梢血単核球(PBMC)子宮内注入療法

着床不全患者に、患者自身のリンパ球を子宮内に注入すると、免疫バランスが補正され子宮内膜受容性と着床率が向上するのではないかという仮説があります。
PBMCにはT、Bリンパ球と単球が含まれています。これらの細胞は、サイトカイン、インターロイキン、成長因子の産生を誘導し、いくつかの研究では、子宮内膜厚および子宮内膜受容能に良い影響を及ぼすことが示されています。反復着床不全治療の研究では、通常、胚移植予定日の3〜5日前に患者から血液を採取し、PBMCを分離した後、子宮内注入を行っています。
反復着床不全治療に関する最近のメタアナリシスでは、PBMCに関しては3つのランダム化比較試験と3つの観察研究が組み合わされ、臨床妊娠率(RR、2.18;95%CI、1. 58-3.00; P<0.00001; OR 2.03; 95%CI, 1.22-3.36; P=0.006)および出生率(RR 2.41; 95% CI, 1.40-4.16; P=0.002; OR 3.73; 95%CI, 1.13-12.29; P=0.03)と両方にPBMC子宮内注入療法の有益な効果が認められました。
全体的にはまだ小規模な研究であり、研究集団もPBMCの調製方法も、治療プロトコルも様々です

PRP子宮内注入療法

多血小板血漿(PRP)は、整形外科、眼科、歯科口腔外科、創傷治癒など、さまざまな臨床現場で使用されており、最近では子宮内膜が薄い女性の移植の際に有効であることが示されています。
高品質の胚移植に3回以上失敗した反復着床不全患者にNazariLら(Hum Fertil (Camb) 2020)は、97人の女性を胚移植48時間前にPRP子宮内注入実施群とコントロール群に無作為に割り付け二重盲検ランダム化比較試験を実施しました。この研究では、着床と臨床的妊娠がPRP群で高くなりました(着床、53% vs. 27%、P=0.009、臨床的妊娠、45% vs.17%、P=0.003)。
更に最近では、Zamaniyan Mら(Gynecol Endocrinol 2021)が、高品質の胚移植に3回以上失敗した反復着床不全患者(凍結融解胚移植未実施)を対象に、臨床試験を実施しました。胚移植2日前にPRP子宮内注入実施し、ITT解析では着床率、臨床的妊娠率、継続的妊娠率のいずれも、PRP群が対照群よりも高くなりました(それぞれ、58.3% vs. 25%、48% vs. 23%、47%vs. 12%、いずれもP<0.01)。
今のところ有用な結果となっています。

G-CSF皮下投与

G-CSFは、単球やマクロファージなどの免疫細胞、内皮細胞、骨髄細胞などで産生される糖タンパク質です。好中球の増殖、分化、作用を促進します。現在、再生不良性貧血や好中球減少症などの血液疾患の治療に遺伝子組換えヒトG-CSFが使用されています。顆粒球コロニー刺激因子も脱落膜細胞で発現・産生されており、子宮内膜が薄い症例、不育症症例、反復着床不全症例への子宮内もしくは全身療法が研究とされ実施されています。Aleyasin ら(RAeproduction 2016)は、多施設共同無作為化非盲検比較試験において、112名の女性を新鮮胚移植の1時間前にG-CSF 300mcgを単回皮下投与する群と対照群に無作為に割り付けたところ、G-CSF群はより高い臨床的妊娠率と着床率を示しました(臨床的妊娠率:37.5%vs. 14.3%、P=0.005、着床率:18% vs.7.2%、P=0.007、n = 112)。
G-CSF皮下投与では上記のように効果が認められていますが、子宮内投与では反復着床不全患者にG-CSFを子宮内注入した2つのランダム化比較試験では、臨床妊娠率や着床率に統計的に有意な差は認められませんでした(Davari-Tanha F,et al. Int J Reprod Biomed 2016、Kalem Z, et al. Sci Rep 2020)。
現在のところ内膜の局所反応より受精卵の発育環境に良好な環境を準備するのではないかとされています。また合併症もまだまだ調査されていないのも現在のところの課題となっています。

その他の免疫療法

子宮内低用量hCG注入療法、免疫グロブリン(IVIG)静注療法、 イントラリピッド静注療法、ヘパリンなどが検討されています。

  • 最近のメタアナリシスでは、反復着床不全女性に子宮内低用量hCG注入療法を行うと着床率および出生率が高いことが報告されています(Busnelli A, et al.Sci Rep 2021、Gao M, et al. Fertil Steril 2019)。ただし、まだまだ少人数の報告であり、hCG注入量も一定の見解がないため、もう少し検討を進める治療の一つです。
  • 免疫グロブリン静注療法は、制御性 T 細胞の作用を増強し、Th1細胞(ヘルパーT 1 細胞)の傷害反応を低下させ、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性化と相関するという仮説のもと、研究されてきました。HoYKらによる最近の観察研究では、卵胞期の末梢NK細胞数が少ない反復着床不全患者に有効であることがわかりました (Front Endocrinol (Lausanne) 2019)。免疫グロブリン静注療法を支持する全体的なエビデンスが少なく、さらなる研究が必要とされています。
  • イントラリピッド静注療法は、カロリーと必須脂肪酸の供給を非経口で必要とする患者に使われている薬剤です。イントラリピッドが子宮内で作用する正確なメカニズムは不明ですが、Th2細胞に有利な子宮環境を変化させ、妊娠に有利な子宮内NK細胞の発現に変化させるのではないかと考えられています。Al-Zebeidiらのランダム化比較試験では、反復着床不全患者にイントラリピッドを注入した群では、臨床妊娠率と出生率に上昇が見られましたが、その結果は統計的に有意な差にはなりませんでした。(臨床妊娠率36.6% vs. 28.2%、P=0.282、出生率18.3% vs.14.1%、P=0.49)。
  • ヘパリンはMMP、カドヘリンE、HBEGF、IGFなどに作用して、trophoblastの子宮内膜への接着・浸潤に影響を与えるとされています。現在のところ、メタアナリシスでは血栓症や抗リン脂質症候群が認められている患者を除き臨床妊娠率に対するヘパリンの有用性は認められていません。

≪私見≫

不妊治療に伴う精神的・経済的負担を考えると、ご夫婦にとっても大きな負担となりますので、医師から「この治療が必要だ」という強い推奨が欲しいのでしょうが、まだまだ結論がでていない分野だけに「まだまだエビデンスが高くないのですが、妊娠するためにエビデンスが高い順からトライするかどうか、負担が大きいことがわかっていても治療を継続したいかどうか」という問いにご夫婦共に向き合わなくてはいけないことだと思います。
2022年1月現在、当院で行っているのは①低用量hCG子宮内注入療法、②PRP子宮内注入療法、③G-CSF子宮内注入療法、④免疫グロブリン(IVIG)静注療法、 ⑤イントラリピッド静注療法、⑥ヘパリン療法です。
PBMCは興味がありますが、免疫グロブリン(IVIG)静注療法、 イントラリピッド静注療法との使い分けが判断つかず、連携している兵庫医科大学との治療方針の統一化から現在は情報収集の最中です。GCSF皮下注射で有用であった論文は新鮮胚初期胚移植(プレドニン5mg/日内服下)でしたので当院の治療方針と合致せず現在は導入を考えていません。
患者様の負担や適応の観点から件数としては①低用量hCG子宮内注入療法>⑤イントラリピッド静注療法>免疫グロブリン(IVIG)静注療法>⑥ヘパリン療法>②PRP子宮内注入療法>③G-CSF子宮内注入療法となっています。
今後の新しい論文や当院でのデータに合わせて適宜治療法の推奨を検討していく予定です。そしてタクロリムスはまだまだ話題にあがってきません。日本から発信している治療なので、是非これらの治療の一つにあがってきてほしいですね。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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亀田IVFクリニック幕張