低用量hCG子宮内注入療法は有効?(論文紹介)

hCGを子宮内に注入すると、LIF、VEGF、MMP9の活性化を誘発する一方で、IGFBP1やM-CSFを阻害する可能性があり、これらのpathwayを調節することで、内膜受容能を向上させることが報告されています。hCGはMMP活性化を介して、子宮内膜へのtrophoblastの浸潤を促進する重要な役割を果たしています。その他に、Th1細胞とTh2細胞のバランスを調整したり、NK細胞を増加させマクロファージの移動を抑制したりすることにより母体-胎児間の免疫寛容に貢献している可能性も考えられています。これらのことから適切に子宮内にhCGを注入し免疫状態を補正することで着床にとって有利な状況を作ることができるとされています。ただし、適切な使用を行わないと有害になる可能性も否定はできません。
過去のランダム化比較試験のメタアナリシスをご紹介いたします。

≪論文紹介≫

MingXia Gao, et al. Fertil Steril. 2019. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2019.02.027

低用量hCG子宮内注入療法が効果的かどうか検討したメタアナリシスです。
主要評価項目は生児出生率、継続妊娠率、臨床妊娠率、副次評価項目は着床率、流産率としました。
結果:
15件2763名のランダム化比較試験を検討しています。低用量hCG子宮内注入療法群は、対照群(プラセボを子宮内に注射、または注射なし)に比べて、生児出生率(44.89% vs. 29.76%)、継続妊娠率(48.09% vs. 33.42%)、臨床妊娠率(47.80% vs. 32.78%)、着床率(31.64% vs. 22.52%)が有意に高かった。さらに、流産率は低用量hCG子宮内注入療法群の方が有意に低くなりました(12.45% vs. 18.56%)。

≪私見≫

低用量hCG子宮内注入療法は生児出生率、継続妊娠率、臨床妊娠率、着床率を改善させ、流産率を低下することがわかりました。
条件として胚移植15分前に500IUのhCGを子宮内に投与することが前提となっています。
この論文の面白いところはサブグループ解析です。
hCG投与時間については、15分未満のサブグループが、6時間前および48時間以上前のサブグループよりも高い出生率、臨床妊娠率、着床率を示しています。hCG投与量については500IUのサブグループが700IUおよび1,000IUのサブグループより最適な結果に至っています。
新鮮胚移植と凍結融解胚移植で比較すると新鮮胚移植がより良好な成績を誇っています。免疫療法の治療に関して新鮮胚のほうが良い結果にみえるのは元々の成績が凍結に比べて悪いからなのでしょうか。ここが不思議に思うところです。
子宮内に注入する液量は20-50umであまり差がないような印象ですが、もうひとつ印象的だったのがプラセボ子宮内注入群と何もしない群のどちらと比較しても低用量hCG子宮内注入療法の効果が変わらなかったことです。初回であっても反復着床不全患者を対象としても有意差も認めていません。
当院でも、他の胚移植時の免疫療法に比べて負担が少ない治療ですので反復不成功患者には積極的に検討を勧めている治療法です。

文責:川井清考(院長)

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