着床不全や不育症でNK細胞は重要?
反復着床不全ではNK細胞異常を認めた時に検討される免疫グロブリンと脂肪乳剤の使用が考慮されるが推奨度Cとなっています。また、不育症の提言2021でも免疫学的検査(末梢血:NK活性、NK細胞率、制御性T細胞率や子宮内膜:CD56brightNK細胞率、KIR陽性率、制御性T細胞)はエビデンスに乏しく研究的検査という位置付けになっています。研究的検査である理由として、検査法が標準化されておらず基準値も定まっていないこと、また免疫異常に対する適切な治療も定まっていないことが挙げられています。
コホート研究では、非妊娠時の末梢血 NK 細胞活性が高い不育症女性は、その後の妊娠が染色体正常流産となるリスクが高いとされています(Ebina Y, et al. J Reprod Immunol. 2017)。しかし、ESHRE やASRMでは現時点のこれらの検査の有用性を示す十分なエビデンスがないとされています。
子宮 NK 細胞は、機能や表現形式からみて末梢血 NK 細胞と同じでないことがわかっています。子宮 NK 細胞が栄養膜細胞の浸潤や血管新生など妊娠の成立・維持において役割を果 たしていることは国内外の研究によって示されています。妊娠前の子宮内膜や流産後の脱落膜のCD56brightNK 細胞率や、Killer immunoglobulin like receptor(KIR)をはじめとしたNK 細胞受容体陽性率が不育症患者で異なることが、ASRM の Committee opinion (2012)や ESHRE のガイドライン(2017)で示されていますが、体外受精において、これらの項目が陽性である場合、成績向上のために、どのような付加治療を行うべきかはまだ定まっていないとされています。
当院でも2021年度より兵庫医科大学と連携しNK細胞を評価・加療するようになりました。2022年1月時点では末梢血NK細胞活性は当院でも測定できますが、子宮内CD16+/CD56 dimは兵庫医科大学しか測定できる施設がないため検査に兵庫医科大学にセカンドオピニオンを兼ねて受診していただき、加療が必要な場合に当院で実施する方向としています。
NK細胞はサイトカイン産生により妊娠の成立・維持に関与しているとされています。実際、子宮内リンパ球のうちのNK細胞の割合は増殖期(20-40%)、分泌期(60-70%)から妊娠第1三半期(70-80%)にかけて子宮内部にNK細胞が増えていることから妊娠には重要な要素をしめていることが推測されます。
NK細胞には様々なpopulationがあります。CD56bright細胞はNK細胞の10%をしめ、子宮NK細胞の主構成成分でサイトカイン産生をメインとします。またCD56dim細胞(CD56弱陽性CD16(細胞障害性のマーカー)陽性)とはNK細胞の90%をしめ、末梢血NK細胞の主構成成分で強い細胞障害性をもっています。妊娠には絨毛間腔に末梢血が存在するため、末梢血NK細胞活性(CD56dim細胞)が高濃度にありすぎてもいけないし、子宮内にCD56dim細胞の割合が高くてもいけません。これらの基準値を当院では、連携先の兵庫医科大学とあわせて、末梢血NK細胞活性>40%、子宮内CD16+/CD56dim >18%としています。
NK細胞制御のためにはプレドニン5-20mg/day、アスピリン、ヘパリン、ビタミンDが有用である可能性がありますが、メインでおこなっているのは4週間ごとの免疫グロブリンもしくは3週間ごとのイントラリピッド(脂肪乳剤)治療としており、反復着床不全でも不育症でも最低 妊娠22週まで実施を推奨しています。L T Polanskiらのreview(Hum Reprod. 2014、DOI: 10.1093/humrep/det414)でもWinger ら(Am J Reprod Immunol 2011)とMoraruら (Am J Reprod Immunol 2012)の論文をとりあげ、免疫異常がある生殖異常患者への免疫グロブリンの有用性についてとりあげていますし、イントラリピッドは作用機序が不明ですが免疫異常の生殖異常に効果があることが以前のブログでもとりあげました(不育症・着床不全に対するイントラリピッドは効果があるのか)。
CD56bright細胞が減ることによりサイトカイン産生異常と起こすこと、CD56dim細胞が増えることにより細胞障害性が増加することが生殖異常の主原因と考えていくと、これらの両方をどのように抑えていくかを考えながら治療選択を決めていくこととしています。
兵庫医科大学にセカンドオピニオンにいくこと、また異常があった場合の免疫グロブリン(血液製剤)を使用することは医療者側としても患者様に勧めるのに抵抗が高いですが、難治性患者さまには選択肢を提示するようにしています。
文責:川井清考(院長)
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