不育症・着床不全分野での免疫学的検査について

生殖医療に関わる多くの人が「不妊症」と「不育症」は別個な病態であるという共通認識をもっています。しかし、不妊症の中の一部である「反復着床不全」と「不育症」はどうでしょうか。不育症の提言2021では別個な病態であるため、反復着床不全に対して不育症に準じた検査は行うのは妥当ではないとされています。
私も、大部分は上記に賛同していますが、やはり病気の名前や診断基準はヒトが説明しやすいように決めたものであり、全ての事象は連続性があるというのが持論ですので、一部オーバーラップする部分があってもおかしくないのではと思っています。
そうはいっても、患者様には、まずは一般論で検査・治療方針を説明するのが医療者の役割ですので、反復着床不全と不育症における免疫検査・療法についてはどうかを不育症の提言2021、生殖医療ガイドラインを参考に提示させていただこうと思います。

●不育症の免疫検査・治療について

(不育症の提言2021より引用)
検査には推奨検査・選択的検査・研究的検査・非推奨検査があり、免疫学的検査は研究的検査・非推奨検査に分類されています。不育症に免疫因子が関係しているというのは万人一致の理解なのですが、検査法の標準化されていない点、カットオフ値が定まっていない点が問題となっています。
研究用検査

末梢血:NK活性、NK細胞率、制御性T細胞率
子宮内膜:CD56brightNK細胞率、KIR陽性率、制御性T細胞

コホート研究では、非妊娠時の末梢血 NK 細胞活性が高い不育症女性は、その後の妊娠が染色体正常流産となるリスクが高かった(Ebina Yら.2017)としていますが、ESHRE のガイドラインを含めて現時点ではこれらの検査の有用性を示す十分な根拠はないとしています。末梢血と子宮内の免疫細胞バランスは同じではないというのが共通の理解となっています。子宮の NK 細胞や制御性 T 細胞の測定は、理論的には良いアプローチである可能性が示唆されており、今後の臨床検査として応用される可能性が期待されます。
また、反復着床不全で測定されているTh1/Th2比は不育症の提言2021では質が高い論文が少ないという理由で非推奨検査に位置付けられています。

●反復着床不全の免疫検査・治療について

(生殖医療ガイドラインより引用)

  • 末梢血を用いたTh1/Th2測定は反復着床不全の診断に有効である可能性がある(推奨度C)
  • 子宮内膜を用いたTh1/Th2測定は反復着床不全の診断に有効である可能性がある(推奨度C)
  • 複数回の良好胚移植で妊娠が成立しない場合には末梢血Th1/Th2比の検査実施が考慮される(推奨度C)
  • 反復着床不全に対する治療として、ヘパリン・タクロリムス・ヒドロキシクロロキン・免疫グロブリン・脂肪乳剤・抗TNF阻害薬などの使用が考慮される(推奨度C)

こちらのガイドラインはTh1/2測定やタクロリムス治療について、推奨度Cとしながらも治療をストップしなくてもよい方向の記載となっております。

当院は2021年6月現在、免疫学的検査は末梢血Th1/Th2のみの測定にとどめております。それ以上の細かい免疫因子の介入が必要と判断した場合、兵庫医科大学様に検査・加療のご相談のセカンドオピニオンに行っていただいております。遠方となりますが、やはりデータを開示している、論文として報告している実績のある医療機関での精査が、このような研究主体の分野では必要なのではと考えています。

今回不育症の提言2021や生殖医療ガイドラインが整備されてきたことにより不育症・着床不全分野での免疫学的検査・加療の国内データは充実してくると思います。
知識をアップグレードしながら皆さんに標準化された治療を患者様個人ベースに落とし込み提供していきたいと思います。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張