ご来院の方へ 腹圧性尿失禁の再生医療:PRP治療

男性・女性の腹圧性尿失禁を再生医療で治療します。
PRP(プレートレットリッチプラズマ)治療は、自身の血液から取り出した成分を利用して、組織修復や再生を促進する治療法の一つです。
女性では、尿道スリング手術までは必要がない中等症の方や、男性では前立腺全摘除術後の尿失禁の治療方法として期待できます。

1.PRPとは

Plate Rich Plasma:PRP、自家多血小板血漿と訳されます。
創傷治癒促進、関節痛改善、薄毛治療などに用いられ、PRPに含まれるEGF、bFGF、IGF、PDGF、TGF-β、VEGFなどの主な成長因子が組織の修復に関わります。

  • 血小板(Platelets): PRPは血小板を豊富に含んでいます。血小板には成長因子が含まれており、これが組織の修復や再生を促進する働きを担っています。
  • 成長因子(Growth Factors): 成長因子は細胞の増殖や組織の再生を促進するためのタンパク質です。PRPに含まれる成長因子は、治療対象の組織の修復や再生をサポートする役割を果たします。
  • フィブリン(Fibrin): PRP中にはフィブリンが含まれています。フィブリンは凝固プロセスで形成されるタンパク質で、PRPを注入することで、治療対象の部位にフィブリンのフィルムが形成され、組織修復を助ける役割があります。
  • 血漿成分: 血漿は血液中の液体成分で、PRPにも含まれます。血漿には栄養素やその他の生体活性物質が含まれており、これが治療対象の組織に栄養を供給する役割があります。

2.PRP治療のメリット

  • 非侵襲性: PRP治療は一般的に非侵襲的な手法であり、外科的な切開や傷口がありません。これにより、回復が速く日帰り手術や1泊程度の入院治療となります。
  • 自己由来の素材使用: PRPは患者自身の血液から生成されるため、免疫応答や拒絶反応がほとんどないと考えられています。これにより、治療材料が自己由来であるため、他の治療法よりも安全性が高まります。
  • 組織の再生促進: PRPには血小板や成長因子が豊富に含まれており、これが組織の修復と再生を促進する役割を果たします。尿道や周辺組織の機能改善が期待され、尿失禁症状の緩和が見込まれます。
  • 痛みの軽減: PRP治療は通常、局所麻酔が行われるため、痛みや不快感が軽減されます。これが患者の治療体験を向上させ、治療後の快適な回復を促進します。
  • 手術リスクの低減: PRP治療は手術を伴わないため、手術に伴うリスクや合併症が低減されます。これは高齢の患者や手術への抵抗感を持つ患者にとって有益です。
  • ただし、これらのメリットに加えて、個別の症例に応じて治療効果が異なる可能性があります。医師との十分な相談を通じて、患者の特定の状態や治療希望に基づいて最適な治療計画を立てることが重要です。

3.PRP治療のデメリット

  • PRPの尿失禁治療は始まったばかりの治療方法で望ましい結果が得られない可能性もあります。
  • 注射中の痛みや出血の報告がありますが、自然軽快されます。

4.どんな方に有効か?

  • 男女の『内因性尿道括約筋不全:ISD』
  • 女性の『腹圧性尿失禁:SUI』
  • 男性の『前立腺全摘除術後の尿失禁(尿漏れ):PPI』

に有効とされています。
以下は海外での治療成績になります。

PRPを月1回尿道括約筋に注射し、計4回の治療成績です。(海外データ)
PRP治療後の全体的評価 (Global Response Assessment Score: GRA)

  GRA1以上の改善率 GRA1 GRA2 GRA3
ISD (Jiangら) 88.6%(31/35) 28.6%(10/35) 40% (14/35) 20% (7/35)
SUI (Chiangら) 75%(21/28) 28.5%(8/28) 25.0%(7/28) 21.4%(6/28)
PPI (Leeら) 92.9%(26/28) 21.4%(6/28) 50% (14/28) 21.4%(6/28)
  • GRA1以上の改善率はそれぞれ75~92.8%、軽症~中等症の方に有効で、特にISDとPPIはGRA2以上の改善率が60%、71.4%と治療効果の高い治療法と考えられます。

参考文献:
1)Jiang YH, et al. Int Neurourol J. 2021 Mar; 25(1): 51-58
2)Chiang CH, et al. Frontiers in Pharmacology, 2022; 13:847520.
3)Lee PJ, et al. Scientific reports, 2021; 11:5371

PRPを用いた尿失禁は日本で初めての治療方法となります。
自己血を使用するため、重大な副作用は認めていませんが、尿道痛、軽微な出血などの報告はあります。亀田総合病院で「安全性と有効性を示すための試験」を兼ねた治療となります。

5.治療方法

  • 血液採取: 腕から通常の採血手順で約35ml血液を採取します。
  • PRPの分離: 採取した血液をベンチレーター内で専用の機器に注入しますこれを遠心分離機で成分に分離します。PRPには血小板や成長因子が豊富に含まれており、これらが組織の修復や再生に寄与します。
  • 局所麻酔:尿道に麻酔ゼリーで麻酔します。
  • 注入: PRPが得られたら、それを尿道括約筋周辺の患部に注入します。この際、医師は軟性ファイバーで正確な位置にPRPを送り込みます。
  • 組織の修復と再生: PRPに含まれる成分が注入された部位で作用し、組織の修復や再生を促進します。これにより、尿道や周辺組織の強化や機能改善が期待されます。

治療イメージ

弱い尿道粘膜や括約筋に注射します
治療後のイメージ

施術回数

月1回、4回施行することが勧められます。

6.入院治療費

【自費診療】1泊2日(個室)
手術費1回:163,515円+入院費用176,491円=340,006円(税込み)

7.再生医療(PRP)に関する国外の実施状況

  • Lee PJ, et al. A novel management for post prostatectomy urinary incontinence: platelet-rich plasma urethral sphincter injection, scientific reports, 2021; 11:5371

    Lee PJらは、2018年9月から2020年4月に、前立腺摘除後尿失禁(PPI)の男性28例(平均年齢:71.8±8.9歳)に対して、自家多血小板血漿(PRP)5mlを硬性膀胱鏡(23 Fr; Richard Wolf, Knittlingen, Germany)を使用して経尿道的に投与したc)。外尿道括約筋に針で、2, 5, 7, 10, 12時の5つの位置に注射した。(図1)これを毎月4回投与した。フォローアップ期間は、4回目の自家多血小板血漿(PRP)治療後3ヶ月間である。
    周術期および全追跡期間中に急性尿閉や尿路感染症などの重篤な有害事象や合併症はなく、PRP投与後に腹圧性尿失禁の重症度が悪化した症例はいなかった。軽度の血尿と排尿痛を3例で認めたが、保存的治療で解消した。
    有効性について、4回のPRP治療後、6例が完全尿禁制を達成し予防的パッドを使用しなくなった。26例(92.9%)で臨床的改善(主要評価項目のグローバル応答評価, GRA (Global Response Assessment)スコア≧1)を示し、20例(71.4%)はGRAスコア≧2を達成した。また、腹圧性尿失禁の重症度VAS (Visual analogue scale) 視覚的アナログスケールは大幅に減少した(ベースライン6.5(5.0, 8.0)、治療後3.5(2.0-5.8)、p<0.001)。Leak pressureも改善された(ベースライン57.5(50.0, 115.0)、治療後126.0(68.3, 150.0)、p=0.004)(図2)
    4回目のPRP投与3か月後に治療後のグローバル応答評価(GRA)スコア、腹圧性尿失禁のVAS視覚的アナログスケール、および尿力学的パラメータで評価された。
    この研究は、PRPを尿道括約筋へ反復注射することで前立腺摘除後尿失禁の重症度を軽減し、かつ安全であることを実証した。(表1)
    (図1. 投与部位)
    (図2. VASの推移)
    (表1. Primary endpoints, Secondary endpoints, VUDS parameters)
  • Jiang YH, et al. Therapeutic Efficacy of Urethral Sphincter Injections of Platelet-Rich Plasma for the Treatment of Stress Urinary Incontinence due to Intrinsic Sphincter Deficiency: A Proof-of-Concept Clinical Trial, Int Neurourol J. 2021 Mar; 25(1): 51-58

    Jiang YHらは、内因性尿道括約筋不全(ISD)による腹圧性尿失禁の35例(平均年齢:68.7±12歳。男性30例、女性5例。すべての症例で保存療法のパッドを必要。)に対して、PRP5mlを尿道括約筋の5か所に全周的に注射し(各部位に1ml投与)、これを毎月の間隔で4回投与した。なお、男性患者に対しては膀胱鏡を介して5部位に、女性患者では尿道口周辺の会陰から5部位に注射した。フォローアップ期間は、4回目のPRP治療後6か月である。(図3)

    PRP注射後の有害事象として軽度の血尿および排尿時の痛みが10例で報告されたが、保存的治療後に解消し、治療後に尿路感染症、排尿困難、尿閉を発症した患者はいなかった。また、重篤な有害事象や合併症はみられなかった。
    有効性について、腹圧性尿失禁の重症度を10ポイントの視覚的アナログスケール(VAS: Visual analogue scale)による患者の自己評価で測定し、この重症度の変化をプライマリエンドポイントとした。完全尿禁制は7例(20.0%)で達成され、中等度の改善は14例(40.0%)でみられた。平均VASスコアは、治療後に6.57±1.89から3.77±2.41に有意に減少した。(図4)
    この研究は、尿道括約筋へのPRPの注入は、尿道括約筋の筋肉量と尿道括約筋抵抗を高め、腹圧性尿失禁を改善するのに安全で有効であり、PRPは、非神経原性の原因による中等度の腹圧性尿失禁の男性および女性に対して低侵襲な代替治療法である可能性があることを示した。

    (図3. 投与部位:A ; 男性、B ; 女性)
    (図4. VASスコアの推移)
  • Nikolopoulos KI, et al. An animal experimental study on pubourethral ligament restoration with platelet rich plasma for the treatment of stress urinary incontinence. Cent. Eur. J. Urol. 2019;72:134–141.

    恥骨尿道靭帯(PUL)の損傷と弛緩は、腹圧性尿失禁(SUI)につながる可能性があると考えられている。Nikolopoulosらは、20匹のメスの未経産Sprague-Dawley系統ラット(生後12週)を無作為にコントロール群、PRP投与群の2群に割り付け、介入前後の漏出点圧力(LPP)の測定を行い、LPPに対するPRPの有効性の評価を行った。

    コントロール群:10匹、PUL切断のみ
    自家多血小板血漿投与群:10匹、PUL切断直後および1か月後にPRP投与

    (結果)
    図5、表2のとおり、PRP投与群において、1、2か月後の追跡調査期間中にLPP値が有意に高く、大幅に改善された。

    (図5. 経時的な各グループの中央漏出点圧力)

    (表2. LPP値)

    これより、PRPの尿道括約筋投与は、腹圧性尿失禁(SUI)の治療につながる可能性が示された。
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