卵管疎通性と慢性子宮内膜炎の関係(論文紹介)

慢性子宮内膜炎が生殖医療成績を低下させることはわかっており、子宮内器質病変(子宮内膜ポリープ、子宮腔内癒着など)がリスク因子になることがわかっています。
では、卵管病変と慢性子宮内膜炎の関連はどうでしょうか。卵管因子がある症例では慢性子宮内膜炎の罹患率が上昇することを腹腔鏡診断+CD138診断で調査した2つの報告をご紹介させていただきます。

≪ポイント≫

子宮内膜症の有無に関わらず、慢性子宮内膜炎と卵管因子(閉塞や水腫)は関連がありそうです。

≪論文紹介≫

  1. 慢性子宮内膜炎と卵管閉塞および子宮内膜症の関連を示す報告
    Iris Holzer, et al. J Minim Invasive Gynecol. 2021 Nov;28(11):1876-1881.  doi: 10.1016/j.jmig.2021.04.011.

    2019年7月から2020年12月まで、不妊症女性100人を対象とした前向きコホート試験で、子宮内膜組織診を伴う子宮鏡検査と卵管疎通性を確認する腹腔鏡検査を実施しました。慢性子宮内膜炎は20HPFでCD138陽性細胞が5個以上のHPFの存在としています。
    結果:
    慢性子宮内膜炎は13人の女性(13.0%)に認められ、子宮内膜症(p = .034)および片側/両側卵管閉塞(p = .013)と関連していました。子宮内膜症女性では、CD138陽性細胞の平均数は、rASRMスコアと正の相関がありました(r = 0.302, p = 0.028)。バイナリ回帰モデルにおいて、片側または両側卵管水腫(OR 15.308;95% CI, 1.637-143.189, p =0.017)および慢性子宮内膜炎診断(OR 5.273;95% CI, 1.257-22.116, p =0.023)は卵管閉塞と有意な関連がありました。

  2. 慢性子宮内膜炎と卵管閉塞および卵管水腫の関連を示す報告
    (子宮内膜症疾患を除外)
    Yujie Zou, et al.  J Clin Med. 2022 Dec 29;12(1):285.  doi: 10.3390/jcm12010285.

    2020年7月から2021年12月に、腹腔鏡・子宮鏡手術を実施した慢性子宮内膜炎女性52名、慢性子宮内膜がない女性38名を対象としました。子宮内膜症および子宮内異常のある女性は除外しました。手術中に子宮内膜組織を採取し、CD138免疫染色を行い、慢性子宮内膜炎の診断に用いました(30HPFでCD138陽性細胞が5個以上)。術前情報(年齢、生殖関連因子、既往歴など)、術中情報(卵管疎通性、卵管水腫など)、術後情報(CE診断)などを比較検討しました。
    結果:
    多変量解析の結果,慢性子宮内膜炎群では片側または両側閉塞の卵管因子が有意に高くなりました(OR 3.066, 95% CI 1.020-9.213, p = 0.046)。卵管の片側閉塞(OR 2.860, 95% CI 0.893-9.162, p = 0.077)よりも両側閉塞(OR 8.785, 95% CI 1.408-54.818, p = 0.020) が慢性子宮内膜炎と強く関係を示しました。片側卵管水腫(OR 7.842, 95% CI 1.279-48.086, p = 0.026)または両側卵管水腫(OR 9.450, 95% CI 1.037-86.148, p = 0.046)も慢性子宮内膜炎と関連していました。卵管水腫を伴わない卵管閉塞、片側卵管水腫、両側卵管水腫におけるCD138陽性HPF数(30HPF中)の比較は以下の通りであった。1 HPF (50.00% vs. 12.50% vs. 11.11%, p = 0.051), 2 HPF (38.89% vs. 25.00% vs. 22.22%, p = 0.615), ≥3 HPF (11.11% vs. 62.50% vs. 66.67%, p = 0.005).

≪私見≫

慢性子宮内膜炎と卵管疎通性異常(閉塞や水腫)は関連がありそうですね。
保険診療下で慢性子宮内膜炎の管理・治療は困難となりましたが、生殖医療結果に影響を及ぼす因子として注意を払う必要があると考えています。
子宮内器質疾患は治療すれば慢性子宮内膜炎が改善しましたが、卵管因子の場合は慢性子宮内膜炎との因果関係は不明です。

~慢性子宮内膜炎に関する過去のブログ~

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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