慢性子宮内膜炎は排卵前が診断しやすい?(論文紹介)

子宮内膜はホルモンの状況によりダイナミックに変化するため、内膜組織を評価するときには、どの時期に評価するか(例えば、着床不全なら着床時期の排卵後中期)は非常に重要だと考えています。慢性子宮内膜炎の診断基準としてよく用いられる形質細胞は、月経周期により同定率が異なると以前から報告されています。治療対象とかんがえるかどうかは別として形質細胞の月経周期のなかでの動態は知っておかないと評価をする時に焦点がぼやけてしまいます。
今回ご紹介する報告は、不妊症・不育症患者で内膜組織診を行った際に形質細胞の同定率がいつ高いのか調べることを目的とした論文です。

≪ポイント≫

排卵前は排卵後に比べ、形質細胞が同定されやすく、排卵前の中では月経直後に一番同定率が高くなりました。

≪論文紹介≫

Emily Ryan, et al. Fertil Steril. 2022 Oct;118(4):787-794.  doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.07.011.

2018~2020年に不妊治療専門クリニックの157人の不妊症・反復流産患者(卵胞期91人、黄体期60人)の子宮内膜生検をレトロスペクティブ・コホート研究です。過去に慢性子宮内膜炎の診断を受けている場合、子宮内腔異常が指摘されている場合、ホルモン療法を受けている場合は除外しています。
ヘマトキシリン・エオジンおよびCD138染色による形質細胞について婦人科病理医が診断しています。形質細胞の分類分けとして、形質細胞なし、まれな形質細胞(1個)、散在性の形質細胞(≥3個)、形質細胞のクラスターとしました。
結果:
黄体期よりも増殖期に形質細胞が見つかる可能性が高く(59.3% vs. 19.7%)、増殖期の中では後期(月経周期9-14日、25例、47.2%)よりも初期(月経周期5〜8日目、29例、76.3%)に高いことがわかりました。増殖期では黄体期に比べて、形質細胞個数が多く見受けられました(25.3% vs. 1.5% 散在性、13.2% vs. 0 クラスター)。

≪私見≫

過去にも同様の内容をブログでご紹介いたしました。
慢性子宮内膜炎の検査は月経周期いつ頃に検査するのがよい?
最近よく引用される2018年のSongら(以前のブログの⑤にあたる論文です)の報告では、異常性器出血および着床不全女性1,550人において、形質細胞が1個以上同定する確率が卵胞期26%に対し、黄体期18%としています。今回の報告と傾向は一緒ですが、有病率が全然違いますね。
形質細胞の同定が慢性子宮内膜炎の診断基準に使われるのは良いと思いますが、どこまでが生殖医療成績に影響を与え、治療対象なのか今後検討していく必要があるのでしょうね。

文責:川井清考(院長)

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