子宮内病変がある慢性子宮内膜炎には手術(論文紹介)
慢性子宮内膜炎は、多様な微生物による子宮内感染が主な原因であり、広域抗生物質療法(ドキシサイクリン2週間経口投与)を実施することが勧められています。
しかし、すべての慢性子宮内膜炎が子宮内感染症に起因するわけではありません。子宮内膜ポリープを含む子宮内膜の異常が器質的に子宮内膜の炎症を誘発し、慢性子宮内膜炎に至る可能性が指摘されています。
この報告では、子宮内膜障害患者における慢性子宮内膜炎の有病率および危険因子を明らかにし、慢性子宮内膜炎に対して抗生物質を投与しない子宮鏡手術の治療効果を検討しています。
≪ポイント≫
子宮内膜ポリープと子宮腔内癒着は慢性子宮内膜炎のリスクファクターであり、子宮内病変を有する慢性子宮内膜炎症例の多くは、種類にかかわらず抗生剤治療を行わず子宮鏡手術で治癒しました。
≪論文紹介≫
Keiji Kuroda, et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2022.05.029
2018年11月から2021年6月に子宮鏡手術を受けた不妊症の女性350人(うち337人)、対照として子宮内病変のない女性89人の慢性子宮内膜炎と子宮内病変との関係を示した前向きコホート研究です。
慢性子宮内膜炎の診断のためにCD138免疫染色を実施しました。慢性子宮内膜炎と診断された女性では、その後の月経周期に抗生物質を使用せずに子宮内膜生検を実施しました。評価項目は子宮内病変における慢性子宮内膜炎の有病率およびリスク因子、慢性子宮内膜炎に対する子宮鏡手術の治療効果としました。
結果:
子宮内病変がない女性、子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫、子宮腔内癒着、中隔子宮の女性におけるCD138陽性細胞5個以上を有する慢性子宮内膜炎の有病率は、それぞれ15.7%、85.7%、69.0%、78.9%、および46.2%でした。多変量解析の結果,慢性子宮内膜炎は子宮内膜ポリープ群(オッズ比,27.69,95%CI,15.01-51.08)および子宮腔内癒着群(オッズ比,8.85,95%CI,3.26-24.05)で高くなりました。子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫、子宮腔内癒着、中隔子宮の女性における手術による慢性子宮内膜炎からの治癒率は、それぞれ89.7%、100%、92.8%、83.3%でした。
Lactobacillus spp.およびBifidobacterium spp.の検出率は子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫、子宮腔内癒着、中隔子宮の女性で差はありませんでした。
コントロール群、手術後慢性子宮内膜炎がなかった群、手術後慢性子宮内膜炎が治癒した群、手術と抗生剤治療で慢性子宮内膜炎が治癒した群で妊娠率・流産率に差がありませんでした。
≪私見≫
子宮内膜ポリープを有する慢性子宮内膜炎には手術(論文紹介)の続編です。
杉山産婦人科の黒田先生の大作です。同年代のファンタジスタですね。
ディスカッションで書かれてありますが、先天性子宮奇形は慢性子宮内膜炎の罹患率が高くないことも新規性が高い報告なんだと思います。臨床妊娠・流産に関しては手術群の75%が体外受精治療です。ここはバイアスが少しあるのかなと思っています。
文責:川井清考(院長)
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