慢性子宮内膜炎と子宮腺筋症(論文紹介)

子宮腺筋症は女性の生殖機能にマイナスの影響をあたえています。どのような機序で悪影響となるかは様々な仮説がたてられて、子宮内膜受容能のずれもその一つです(過去のブログ:内膜の着床の窓はいつも一緒なの?)。今回、生殖年齢女性の子宮腺筋症における慢性子宮内膜炎の罹患率を調査した報告がありましたので、ご紹介させていただきます。

≪ポイント≫

子宮腺筋症のタイプにより慢性子宮内膜炎の罹患率に差があり、生殖医療成績に影響を与えている可能性が考えられます。

≪論文紹介≫

Khaleque N Khan, et al. Reprod Med Biol. 2021 DOI: 10.1002/rmb2.12421.
2015年3月から2017年12月に、子宮腺筋症の限局タイプ(n = 30)、びまん性タイプ(n = 26)、内在性タイプ(n = 23)、外在性タイプ(n = 10)の慢性子宮内膜炎との関係を調査した前向き非ランダム化観察研究です。子宮腺筋症のタイプは経膣超音波検査とMRI により臨床的診断を行い、子宮摘出後の組織学的に確認しました。子宮内膜生検サンプルは、子宮摘出標本から採取しました。内在性/外在性タイプではCD68免疫染色をおこない、マクロファージの組織浸潤を評価しました。慢性子宮内膜炎の診断はCD138免疫染色で行いました。
結果:
GnRHa未治療群では、子宮内膜間質への1個以上の形質細胞の浸潤を慢性子宮内膜炎としたときの発生率は、子宮筋腫で子宮摘出をおこなったコントロール群(10.0%)と比較して、限局タイプ(58.8%、p = 0.0849)、びまん性タイプ(60.0%、p = 0.0841)で高い傾向が認められました。限局タイプでは病変同側(58.8%)が対側(11.7%)に比べて有意に高い発生をしめしました。
子宮内膜におけるマクロファージの組織浸潤は、内在性タイプで外在性タイプより有意に高くなりましたが(p = 0.03)、内在性/外在性タイプでは慢性子宮内膜炎の発生率には差がありませんでした。

内在性タイプ(Intrinsic type):子宮筋層内側に病巣が存在し、病巣外側に正常筋層が残るタイプ
外在性タイプ(Extrinsic type):子宮筋層外側に病巣が存在し,病巣内側に正常筋層が残るタイプ

≪私見≫

慢性子宮内膜炎の原因として子宮内感染に加えて、子宮内膜の炎症状態を誘発する非感染性の原因の存在が提唱されています。これらは子宮内膜ポリープ、流産、胎盤関連病変、子宮内膜癌、そして子宮腺筋症・子宮内膜症などの主要な婦人科疾患に関係している可能性があります。抗生剤で治癒しない慢性子宮内膜炎患者に対して、どのように加療を行うのか、また生殖医療成績を改善していくのかが今後の課題を考えています。
私個人としては、着床不全の原因として形質細胞の浸潤をはじめとする子宮内炎症状態>感染と考えていますので、子宮内炎症状態を改善する方法が存在するのであれば反復着床不全患者には提案を行っていくべきだと考えています。

文責:川井清考(院長)

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