生殖医療成績を向上させるトリガー日に寄与する卵胞径(論文紹介)

卵巣刺激を行っていると、発育卵胞の大きさや数、分布が人によって異なるため、採卵日をどこに設定するか迷うことが少なくありません。今回、機械学習によって、成熟卵子数、受精卵数、有効胚盤胞数を予測する機械学習を準備し、トリガー日の決め手となる卵胞径の方向性を示した報告がありましたのでご紹介させていただきます。

≪ポイント≫

今回の機械学習では下記のことを示しています。

  • トリガー決定には14~15mmと16~17mmの発育卵胞が最も重要。
    小さな卵胞は成熟卵子になる可能性が低い
    大きな卵胞は変性、過熟卵子である可能性が高い
  • トリガー日の発育卵胞サイズによる成熟卵子数割合
    11-13mmの発育卵胞1個
    ⇨0.52成熟卵子数(当日トリガー)、0.71成熟卵子数(翌日トリガー)
    16-17mmの発育卵胞1個
    ⇨0.69成熟卵子数(当日トリガー)、0.57成熟卵子数(翌日トリガー)

≪論文紹介≫

Michael Fanton, et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2022.04.003
成熟卵子数、受精卵数、有効胚盤胞数を予測する機械学習が準備できるかどうかを検証したレトロスペクティブ研究です。米国の3生殖医療医療施設センター3施設において2014年から2020年に体外受精を行った患者(n = 30,278)を対象としました。
結果:
トレーニング用(70%)、検証用(10%)、テスト用(20%)のデータセットに分け検証しています。発育卵胞数とエストラジオールレベルの線形回帰を用いて、機械学習モデルが開発しました。このモデルを用いて推奨トリガー日を検証し、トリガーまたは刺激継続の1日ごとの予測を行ったところ、推奨日より早期および遅延のトリガーの可能性が、それぞれ48.7%および13.8%周期同定されました。傾向スコアマッチング後、早期トリガー女性は、推奨トリガー女性と比較して、成熟卵子数が2.3個少なく、受精卵数が1.8個少なく、有効胚盤胞数が1.0個少なく、遅延トリガー女性は、推奨トリガー女性とのマッチングと比較して成熟卵子数が2.7個少なく、受精卵数が2.0個少ない、有効胚盤胞数が0.7個少ないことがわかりました。

≪私見≫

最近、生殖医療分野においても機械学習モデルの検証が導入され始めています。
今回の検証において面白みを感じたのは、卵巣刺激の成績向上に関しては、ランダムフォレストやXGBoostリグレッサーなどの複雑なモデルを用いても精度が上昇せず、もっと簡単なモデルでの対応が可能であったところです。たしかに影響を与える因子が少ないので当然といえば当然の気もします。

今回の卵巣刺激背景ですが、女性年齢36.8±4.4歳、BMI 25.6±5.3、AMH 2.6±3.0、AFC 12.5±10.4、トリガー日11.8日±1.9日、トリガー決定E2 2,300±1,290 pg/mL、発育卵胞径 10 mm以下 1.9±3.6個、11-13 mm 2.8±3.0個、14-15 mm 3.2±3.0個、16-17 mm 3.1±2.6個、18-19 mm 2.5±1.9個、> 19 mm 1.9±1.9個、MII数 10.3±7.2個、2PN 7.6±6.1個、有効胚盤胞数3.6±3.5個です。
卵巣刺激法やトリガーの種類は書かれていません。uhCGもしくはrhCGでのデータであると思いますが、成績として納得できる割合ですので、とても参考になるポイントかなと思っています。

文責:川井清考(院長)

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