胚異数性は父親因子にどの程度影響をうけるの?(論文紹介)

不妊原因には一定数男性側の異常が影響を与えることは一般的になってきました。しかし、体外受精に進み、顕微授精を含めて受精・胚発生に成功し胚盤胞に到達した場合の異数性に、どのような影響を与えているかはわかっていません。
着床前検査(PGT-A)にて、父親因子(父親年齢、BMI、精液所見)が父親由来の胚異数性に関係があるかどうか調べた報告です。

≪ポイント≫

父親年齢、BMI、精液所見は、父親由来の胚異数性との関連が明確ではなかった。ただし、大規模RCTやメタアナリシスはまだまだ行われておらず、今後も大事なトピックスである。

父親年齢、BMI、精液所見が父親由来の胚異数性に関連があるかどうかを調査した後方視的研究です。2015年1月から2020年にかけて、453体外受精周期(1,720胚)が、親支援バイオインフォマティクスを用いたSNPsアレイを用いたPGT-Aを行いました。
母親年齢36.5(±3.5)歳、父親年齢39.5(±5.5)歳、母親BMI 24.7(±5.0)、父親BMI 27.6(±4.3)でした。父親由来の胚異数性は8.4%(144/1,720)個の胚に認められました。父親BMIが記録されている胚は1,533個であり、父親由来の胚異数性はBMI間では同程度でした(BMI 18-24.9 は7.2%、BMI 25-29.9は8.4%(OR、1.12;95%CI、0.79-1.82)、BMI ≧30 は9.1%(OR、1.31;95% CI、0.83-2.08))。精液所見正常である胚は854個、異常である胚は866個であり、精子濃度、総数、運動率、進行性運動率、形態率において父親由来の胚異数性の割合に差は認められませんでした。50歳未満の男性と50歳以上の男性でも異数性率に有意差は認められませんでした(OR, 1.69; 95% CI, 0.96-2.98).

≪私見≫

父親由来の胚の異数性率を評価した研究はまだ多くはありません。Sillsらは異数性胚の36.6%が父親由来であると報告(Mol Cytogenet. 2014; 7: 68)していますが、分割期胚が主(全体の86%)であったため、現在のPGTの参考にはしにくいと考えています。
Kubicek Dらは、異数性胚の9.9%が父親由来であると報告(Reprod Biomed Online. 2019; 38: 330-339)していますし、今回の報告でも8.4%でもあることを考えると胚盤胞の異数性の約8-10%が父親由来と思っていいのかなと考えています。
父親年齢、BMI、精液所見も今回は有意な差はつかなかったものの、少しでも男性因子を改善することが良好な胚獲得に関係するのだろうなと改めて感じています。

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文責:川井清考(院長)

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