高齢男性の子供の精神疾患・発達障害増加の原因はdnSNV?(論文紹介)

父親高齢化と子供の精神疾患や発達障害のリスクとの間には関連性があるとされています。父親の年齢が高くなるにつれて蓄積される遺伝子変異、特にde novo single nucleotide variants(dnSNV)に起因すると考えられています。
これらの突然変異は、父親の生殖細胞で発生する頻度が、母親の生殖細胞で発生する頻度よりも3~4倍高いとされています(Kong, A. et al.Nature. 2012, Goldmann, J. M. et al. Nat. Genet. 2016)。そして、父親の加齢に伴い子供にdnSNVが増加することが観察されています(Rahbari, R. et al. Nat. Genet. 2016)。しかし、そのような変異によってもたらされる実際の疾病リスクの大きさは分かっておらず、実際には、疫学的な関連性から示唆されるよりもはるかに小さい可能性があります。

父親年齢と関連があるとされている自閉症、先天性心疾患、てんかんを伴う神経発達障害、知的障害、統合失調症の増加はdnSNVの増加率から説明可能なのでしょうか。こちらを調べた論文です。

≪論文紹介≫

Jacob L Taylor, et al.  Nat Commun. 2019.DOI: 10.1038/s41467-019-11039-6

親子間の全ゲノム配列データを用いて,父親の年齢に関連するdnSNVと,自閉症、先天性心疾患、てんかんを伴う神経発達障害、知的障害、統合失調症の5つの障害のリスクとの関係を推定しました。デンマークの登録データを用いて、各疾患と高齢の父親との間の疫学的な関連性が,推定されるdnSNVからの予測発生率と一致するかどうかを調べました。
dnSNVは父方の年齢の上昇に伴って年間3.1%の割合で蓄積されることがわかりました。しかし、父方の年齢に関連したdnSNV(エクソーム内のde novo変異)は,これらの疾患のリスクをわずかにしかもたらさないことがわかりました。それぞれの疾患の有病率が低いにもかかわらず、このようなリスクの増加は、集団レベルでの発生率の増加をわずかに予測するだけにすぎません。実際の発生率をみると、dnSNV以外の他の原因が関係していることも十分考えられます。
今回のデンマークの疫学的な調査では、自閉症と統合失調症については父親の高齢化との関連は認められませんでした。

≪私見≫

生殖細胞の発生の過程から男性の生殖細胞(精子)はde novo single nucleotide variants(dnSNV)が入りやすく、これにより一定の疾患が増えると説明されがちですが、そちらに疑問符を投げかけた論文です。もっともっと、このあたりの内容を私たちが理解し患者様にわかりやすく説明することができたら最高にいいんですが、難しすぎて中々わかりやすい説明の仕方が思いつきません。
いつも思いますが、Nature系の論文はゆっくり時間がある時以外は中々難しくて読む気がおきません。もっと勉強しないとダメですね。

文責:川井清考(院長)

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