精子DNA断片化検査の位置付け(WHO精液検査マニュアル第6版)

WHOの精液検査マニュアル第6版ではDNA fragmentation(DNA断片化)検査について、比較的しっかりと書き込まれました。

精子のDNA損傷は、DNAの正常構造が化学的に変化することと定義されます。
精子DNA断片化は、一本鎖または二本鎖の切断という形で遺伝子に障害を与える一般的な指標となります。精子DNA断片化は様々なプロセスによって引き起こされます。
精子DNA断片化が多くなると受精能力に異常がなくても、自然妊娠でも体外受精でも受精した後の胚の発育、着床、妊娠に影響を与える可能性があることが複数の論文で報告されています。精子DNA断片化は通常の精液所見が悪い男性では多くみられることがわかっていますが、精液所見が正常範囲でも精子DNA断片化だけ悪い場合があり、今後新しい指標として注目を集めています。
精子クロマチン中のDNA断片化を評価する方法は複数臨床応用されています。
TUNEL法、コメットアッセイ法、アクリジンオレンジを用いたフローサイトメトリー法、精子クロマチン分散試験(SCD)法などである。コメットアッセイ法以外は精度・感度ともに良好であるとされています。今回のWHO第6版では基準値を定めておらず、各検査室が適切なコントロールに基づいて独自の基準範囲を設定することを推奨しています。さらに、精子DNA断片化検査の臨床的な有用性については言及されていません。
第6版では精液のbasic検査、extended検査、advanced検査と三種類にわけており、DNA断片化テストはextended検査、酸化ストレステストはadvanced検査としています。

当院で行っている「精子クロマチン分散試験」についても説明されています。
精子DNAの酸変性に対する感受性を評価する光学顕微鏡法である。精子クロマチン分散試験は、酸変性と核タンパク質を取り除いたあと、ダメージのない DNA ループは拡張し、ダメージのあるDNA ループは拡張が小さいか起こらないという原理にもとづいています。このDNAループの拡張がHaloとして認識され、Fernándezらの基準に従って分類していきます。(Jose Luis Fernández, et al. J Androl. 2003)
- 大:Haloの大きさが精子核の直径と同程度かそれ以上のもの
- 中:Haloの大きさが「大」と「小」の間
- 小:Haloの大きさが精子核の直径と1/3以下
- Haloなし
- Without Halo-degraded: Haloがなく精子核も不規則もしくは弱くしか染色されないもの

以前に培養室長の平岡が書いたブログもご参照ください
精子DNA損傷検査法ハロースパームの紹介

当院では最低でも300個以上の精子を評価し、小+Haloなし+Without Halo-degradedが全体の中で30%以上を異常と評価しています。

当院データ:精子DNA損傷率の分布

文責:川井清考(院長)

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