精液の酸化ストレスの位置付け(WHO精液検査マニュアル第6版)
WHOの精液検査マニュアル第6版では精液の酸化ストレスについて、比較的しっかり書き込まれました。
1990年代、Aitkenらは精液中の酸化還元反応の不均衡(酸化ストレス)が生殖能力に悪影響を及ぼすという仮説をとりあげました。精索静脈瘤、膿精液症(数多く白血球がふくまれる症例)、糖尿病、肥満などの多くの疾患では、過剰な量の活性酸素が産生されるため、精液中の酸化ストレスが発生します。その結果、精液中の酸化ストレスは、精子のDNAダメージを含む様々な精子機能に悪影響を及ぼし、その結果、受精・胚発育過程や生殖成績に影響を及ぼすことになります。現在のとこころ、酸化ストレスの影響で起こる精子DNA断片化を評価する検査がextended検査として一般的になってきています。最近では、抗酸化物質と活性酸素のバランスを直接的に調べることができる検査が出てきており、今回はadvanced検査として取り上げられています。
ルミノールのフリーラジカルと反応したときの化学発光反応に基づいている酸化ストレスを見る方法は臨床検査として汎用化されていません。電気化学的手段によって酸化ストレス(static Oxidation-Reduction Potential; sORP)の原理に基づき、精液内の電子の移動を測定することで酸化ストレスを数値化する機械がMiOXSYSです。
5分以内に測定できますし、比較的簡易な機械ですから導入はし易くなっています。現在、特許も取られているため、臨床の場で測定する場合はこちらを用いることが多いです。問題点としては、MiOXSYSのデータを用いた生殖医療結果と示したエビデンスレベルが高い研究が存在しないことです。そのほかにも精液の粘度などにより充填がうまくいかなかったり、標準化のための条件設定がしっかり確立されていない点です。
検査会社の説明では、新鮮な精液、凍結融解した精液のどちらでも測定可能とされていますが、比較をするときや基準値も統一したものが使えるかどうかは不明です。
当院でも、MiOXSYSを導入しておりますが、一定の測定をする上でのルールを決め実施するようにしています。
当院データ:精子酸化ストレス度の分布
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。
当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。