腟潤滑ゼリーは妊娠率に影響する?(論文紹介)

市販の腟潤滑ゼリーは、in vitroの精子の運動性に悪影響を及ぼすことが示されています。では、実際の夫婦生活のときに使うと妊娠率に影響を与えるのでしょうか。アメリカ生殖医学会の論文でも触れられていますが、実は精液所見の低下はin vitroでは示されているのですが、夫婦生活での妊娠率の低下は認めていないんです。

≪論文紹介≫

Anne Z Steiner, et al. Obstet Gynecol. 2012. DOI: 10.1097/AOG.0b013e31825b87ae
不妊症の既往歴のない30~44歳の女性で、不妊期間3か月以内の女性を対象に、腟潤滑ゼリーの使用に関するアンケートを実施しました。その後、女性は月経、夫婦生活、腟潤滑ゼリーの使用を記録する日記をつけ、最長6カ月間妊娠の有無を追跡しました。
296名の参加者のうち、75名(25%)がアンケートで、妊娠を試みているときに腟潤滑ゼリーを使用していると答えました。日記データによると、57%の女性は潤滑剤を使用したことがなく、29%は時々使用し、14%は頻繁に使用していました。妊娠しやすい期間中に腟潤滑ゼリーを使用した女性は、年齢、パートナーの人種、妊娠しやすい期間中の性交頻度を調整した後、妊娠しやすい期間を使用しなかった女性と同程度の妊娠率を示しました(出産可能性比1.05、95%CI:0.59、1.85)。

K A McInerney, et al. BJOG. 2018. DOI: 10.1111/1471-0528.15218
避妊や不妊治療を行っていない18~49歳の女性6,467名。
デンマーク(2011年~2017年)と北米(2013年~2017年)で行われた、妊娠に関する2つの継続的な前向きコホート研究のデータをプールし避妊や不妊治療を行っていない18~49歳の女性6,467名(不妊症の既往歴がなく、登録時に6周期以下の妊娠を試みていた女性)を対象とし検証しました。自己申告による腟潤滑ゼリーの使用は、水性/pH調整なし、水性/pH調整あり、シリコン系、油性、またはこれらの組み合わせに分類しました。さまざまな因子で調整した上で、腟潤滑ゼリーの使用と妊娠のしやすさの関連性について、検討しました。
参加者の17.5%が腟潤滑ゼリーの使用を報告しており、最も多かったのは水性/pH調整なし(11.4%)でした。腟潤滑ゼリーを使用していない場合と比較して、水性/pH調整なし腟潤滑ゼリーの使用で1.02(95%CI 0.93-1.11)、「妊活に適した」とされている水性/pH調整あり腟潤滑ゼリーの使用で1.01(95%CI 0.86-1.18)、油性の腟潤滑ゼリーの使用で1.23(95%CI 0.94-1.61)、シリコン系の腟潤滑ゼリーの使用で1.27(95%CI 0.93-1.73)と妊娠のしやすさに変化はみられませんでした。

≪私見≫

腟潤滑ゼリーは自然妊娠の確率を落とさないことが2本の論文で示されています。
In vitroの研究では、腟潤滑ゼリーが精子の運動性を比較的早期に阻害することが示されています。普通は静止の動きが悪くなったら妊娠率が低下するはずですが、この矛盾はなんなんでしょうか。
仮説として、以下の3つが考えられています。
①腟潤滑ゼリーは実は膣上部、子宮頸管付近までは意外と多く沈着していない
②精子の頸管内への侵入の方が早い
③腟潤滑ゼリーを使うことで夫婦生活の回数が増える
2本目の論文で「妊活に適した」とされている水性/pH調整あり腟潤滑ゼリーを使用しても、他の腟潤滑ゼリーの差がみられなかったことを考えると、①、②の仮説が正しいのかもしれませんね。使用については適宜相談ですね。

文責:川井清考(院長)

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