男性年齢は体外受精の胚発生に影響を与えるの(論文紹介)
不妊の原因として女性の年齢ばかり指摘されてきましたが、最近では男性の高齢化も不妊原因であることが指摘されてきています。今まで議論がされづらかったのは夫婦の年齢が同年代であることが多く、女性年齢に男性年齢がマスクされてしまっていたからです。ただ、様々な切り口から男性高齢化の不妊への影響が研究されるようになってきました。
男性の高齢化は、テストステロンレベルの低下や、精液量の減少、運動精子数の減少、異常形態精子の増加など、精液の質の低下と関連することが知られています(Kidd, et al. 2001、Sartorius and Nieschlag. 2010、Bertoncelli Tanaka el al. 2019)。男性の高齢化は通常の精液検査に加えて最近注目されている父親の精子DNAダメージ検査にも影響を与えることが報告されています(Wyrobek et al. 2006、Sharma et al. 2015、Kaarouch et al. 2018)。
では、体外受精における胚発生には男性年齢は影響を与えるのでしょうか。
小さい数の報告ではありますが、2021年に報告された研究をご紹介させていただきます。
≪論文紹介≫
Jolien Van Opstal, et al. Hum Reprod. 2021.DOI: 10.1093/humrep/deaa256.
父親と母親を妊娠前から出産まで追跡調査する縦断的なEpigenetic Legacy of Paternal Obesity(ELPO)研究の一部として行われました。
2015年4月から2017年9月までリクルートした87組のカップル(ベルギーのルーベン大学)の1,057個の胚を解析しました。精液検査、妊娠率、胚の特徴(割球数、対称性、断片化率)を記録しました。周期内での相関関係や、1組のカップルが複数の周期を行っていることを考慮して統計的モデリングを行いました。
結果:
高齢男性は若年男性に比べてday3胚の8細胞まで到達する率が低いことがわかりました。オッズ比は0.960(95%CI:0.930-0.991、P=0.011)でした。この結果は、女性年齢や男女BMIを調整しても変わりませんでした。断片化率や対称性は、男性年齢とは関連しませんでした。
結論:
男性年齢が高くなると、3日目に8細胞に到達する割合が低くなります。
≪私見≫
卵子も精子も私たちの身体で作られる細胞ですから、それぞれの年齢が妊孕性に影響するというのは当然の印象を受けます。今回は3日目での割球数が少ないという結論でしたが、彼らの報告では対称性も断片化率も変わっておらず、予備実験では症例は少ないですが、4細胞から8細胞への発育スピードに影響をあたえているのでは?と仮説をたてています。今回の検討では症例数も少なく、男性年齢が直接影響を与えているのか、男性の高齢化による生活習慣の変化が影響を与えているのかは結論付けられていません。
胚発育が不良な場合は、精液検査が正常であっても男性不妊外来に積極的に受診を促すような時代が来るのかもしれません。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。