反復流産に男性因子(精液・精子)が影響する? (論文紹介)

反復流産の原因として、現在は女性の原因がメインで説明されることがほとんどですが、男性因子の関与が様々な角度から報告されています。当院で実施している
精液の酸化ストレステストやDNAダメージをみる検査(Halosperm法)と反復流産の関係を検証した論文がありましたのでご紹介させていただきます。
反復流産の原因精査のガイドラインに男性精査について書き込まれる日もそう遠くないのかもしれません。

Channa N Jayasenaら、Clin Chem. 2019.DOI: 10.1373/clinchem.2018.289348.

≪論文紹介≫

反復流産既往カップル群と健常対照群の男性パートナーの間で男性のホルモン値、精液検査を比較しました。精液中の酸化ストレスは化学発光アッセイ法、DNA断片化 テストはHalosperm法を用いて測定しました。
結果:
①精液検査
精子の運動率、前進運動率、正常な形態率はすべて反復流産群で減少しました。
②男性ホルモン値
早朝血清テストステロン(nmol/L)、血清エストラジオール(pmol/L)は、反復流産群が対照群より、それぞれ15%、16%低い傾向にありましたが、年齢を補正すると差を認めませんでした。血清LHホルモンおよびFSHホルモンは群間で差を認めませんでした。
③精液中の酸化ストレス、精子のHalosperm結果
酸化ストレス度は、反復流産群では対照群に比べて4倍高く(対照群、2.0.±0.6;反復流産群、9.1± 4.1;P<0.01)、精子DNA断片化率は、対照群よりも反復流産群が2倍高くなりました(対照群、7.3± 1.0; 反復流産群、16.4 ±1.5; P< 0.0001)。
彼らのデータは、反復流産を持つカップルの男性パートナーは生殖内分泌機能の低下、精液中の活性酸素の増加、精子のDNA断片化率の上昇があることを証明されました。

≪私見≫

複数の研究では、反復流産の影響を受けた男性パートナーの精子のDNA断片化が、健常群と比較して増加していることが報告されています。
肯定派:
Imam SNら. J Reprod Infertil 2011
Henkel Rら. Asian J Androl 2011
Ribas-Maynou Jら. Hum Reprod 2012
Simon Lら. Fertil Steril 2011
Gupta Sら. Obstet Gynecol Surv 2007
Robinson Lら. Hum Reprod 2012
Zhao Jら. Fertil Steril 2014
否定派:
Coughlan Cら. Asian J Androl 2015

精子のDNAのダメージは酸化ストレスと一致することが多い報告されています。精液中の酸化ストレス上昇の主な原因は、精索静脈瘤と性感染症であることが知られています。反復流産カップルの精索静脈瘤の手術は、無治療群と比較して、妊娠率を有意に改善し、流産のリスクを減少させたことが報告されています (Mansour Ghanaie Mら. Urol J 2012)。また、男性パートナーが精液中のウレアプラズマ感染がみとめた患者は非感染群にくらべて流産率が高かったことが報告されています (Kanakas Nら. Fertil Steril 1999)。
興味深いのは精液中の酸化ストレスが生活習慣の改善、食事やサプリメントで改善し流産を減少させるかどうかです。結論がまだでておりませんが様々な臨床研究が行われている最中ですので、結果を待ちたいと思います。

私ごとではありますが、私が大学院でお世話になった研究室はマウスの胎盤形成に父型インプリンティング遺伝子が関与したことを報告したグループでした。基礎分野では研究者として大成できませんでしたが、大学院で学んだこと、研究したことが臨床現場で患者様に還元できるところまできていることに喜びを感じます。臨床医として医療現場に還元していきたいと思います。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張