レトロゾール(フェマーラ錠®)を用いる人工授精(当院の治療方針)

私たちはレトロゾール(フェマーラ錠®)を用いて、PCOSや原因不明の不妊症の患者のタイミング療法や人工授精を行います。もちろん、排卵がある方には教科書通り、薬を用いない治療から開始し、次にクロミフェン(クロミッド錠®)とステップアップしていくことが多いのですが、以前紹介した原因不明不妊に対するアメリカ生殖医学会の治療ガイドライン(https://medical.kameda.com/ivf/blog/post_76.html)に記載されているように+αの治療として用いることが増えています。
ただ、いつも悩ましいのは人工授精・タイミングをとるときに下記のような組み合わせとなるのですが、どこを取捨選択すべきかです。
①卵胞発育過程の卵巣刺激
なし/あり:クロミッド®、セキソビット®、レトロゾール HMG注射
②排卵時期の排卵誘発剤
なし/あり:オビドレル®などのhCG製剤やGnRHa点鼻
③黄体補充
なし/あり:デュファストン®など

海外の論文では、複数卵胞を育てた人工授精の報告が多いため自分たちの行なっているようなデータをまとめている論文がなかなか見つかりませんでしたが、イラクの大学からイメージに近い論文報告があったのでご紹介します。2016年6月から2018年1月までバグダッドのAl-Mustansiriyah大学で実施された前向き無作為化臨床試験です。PCOSの不妊患者149名を対象としています。A群(レトロゾール5mg/day内服群、n=99)とB群(レトロゾール5mg/day内服群+ゴナールF®併用群、n=50)に分けオビドレル®で排卵誘発をした後、無作為にデュファストン®10mg/dayによる黄体補充を行うかどうかを再度分類しました。その結果、統計的に有意差は認められませんでしたが、黄体補充を使用したレトロゾール群の方が、妊娠率が高いことが示されました(p=0.08)。交絡因子を調整した結果、レトロゾール5mg/day内服群+ゴナールF®併用群+黄体補充群が有意に高い妊娠率が得られています。(Fadia Alizziら. Asian Journal of Pharmaceutical and Clinical Research 2018)

項目 レトロゾールのみ レトロゾール+
黄体補充
レトロゾール+
トリガー
レトロゾール+
トリガ+黄体補充
p値
症例数
49
50
25
25
-
年齢
26.6±2.3
25.9±1.3
28.0±2.3
27.1±2.1
0.005
BMI
26.1±1.6
25.9±1.3
26.6±1.2
26.4±1.2
0.138
分娩歴なし(%)  
0.812
分娩歴なし
28(57.1)
36(72.0)
16(64.0)
17(68.0)
 
1人出産歴あり
17(34.7)
12(24.0)
8(32.0)
7(28.0)
 
2人出産歴あり
4(8.2)
2(4.0)
1(4.0)
1(4.0)
 
不妊期間
22.0±8.4
22.7±7.7
22.6±8.0
21.8±7.1
0.561
主要卵胞サイズ
18.59±0.70
18.44±0.71
19.32±1.02
19.17±1.21
<0.001
主要卵胞数(%)  
0.009
1
48(98.0)
49(98.0)
20(80.0)
22(88.0)
 
2
1(2.0)
1(2.0)
5(20.0)
3(12.0)
 
周期数(%)  
0.900
I
2(4.1)
1(2.0)
0(0.0)
0(0.0)
 
II
7(14.3)
10(20.0)
3(12.0)
3(12.0)
 
III
40(81.6)
39(78.0)
22(88.0)
22(88.0)
 
子宮内膜の厚さ
7.68±0.45
7.71±1.17
8.03±0.40
7.92±0.21
0.181
妊娠判定陽性テスト
15(30.6)
22(44.6)
7(28.0)
11(44.0)
0.347
Fadia Alizziら.Asian Journal of Pharmaceutical and Clinical Research 2018より改変

私たちのクリニックでは人工授精の妊娠率が3ヶ月平均で約8.5%です。レトロゾール/オビドレル®/デュファストン®併用群の妊娠率が10.6%(20/189)に対しレトロゾールを使用するがオビドレル®・デュファストン®のどちらかを行わない群の妊娠率が6.6%(4/61)となっているので、悩ましい場合にはオビドレル®+デュファストン®を併用するようにしています。
レトロゾールの卵胞発育・黄体機能への作用機序を含めて検証してみたいと思います。
私たちのクリニックでは人工授精の妊娠率が3ヶ月平均で約8.5%です。レトロゾール/オビドレル®/デュファストン®併用群の妊娠率が10.6%(20/189)に対しレトロゾールを使用するがオビドレル®・デュファストン®のどちらかを行わない群の妊娠率が6.6%(4/61)となっているので、悩ましい場合にはオビドレル®+デュファストン®を併用するようにしています。
レトロゾールの卵胞発育・黄体機能への作用機序を含めて検証してみたいと思います。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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