黄体中期プロゲステロン値は卵巣刺激別に基準値が異なるの? (論文紹介)

黄体中期プロゲステロン値の正常値を説明するときに私たちが意識することは、黄体機能不全がおこっていて妊娠率に影響をあたえていないかです。通常、今までの先行研究から正常値のカットオフ値(10~15ng/mL)が一般的となっています。では事前に卵巣刺激役を投薬して評価することに意味があるのでしょうか。私個人としては薬を使わない状態の黄体機能不全を評価することも大事ですが、妊娠率を上げるために卵巣刺激薬を用いているので、その段階でも黄体機能を評価することは意味があると思っています。ただし、先日のブログにも書いたように測ると費用もかかりますし、現状一般不妊の間に何回も評価することは憚られます。この研究は「卵巣刺激別の黄体中期プロゲステロン値と人工授精の妊娠・出産率」を評価した論文です。ご紹介させていただきます。

Hansen KRら.J Clin Endocrinol Metab. 2018 DOI: 10.1210/jc.2018-00642.

≪論文紹介≫

「AMIGOS試験」は、原因不明の不妊症を持つカップル(18~40歳の排卵障害なく両側の卵管が閉塞していない女性/総運動精子数が500万以上いる男性)を対象に、卵巣刺激-人工授精による妊娠、臨床妊娠、出産率を評価する前向き多施設無作為化臨床試験です。この試験は米国の12施設で実施され、クロミッド®(300組)、レトロゾール(299組)、HMG注射(301組)に無作為に割り付け2376回の人工授精の成績を評価しています。二次解析として卵巣刺激別の黄体中期プロゲステロン値と人工授精の妊娠・出産率を検討しています。
●卵巣刺激方法 月経周期の3日目前後から開始
①クロミッド®100mg/day 5日間
②レトロゾール5mg/dayを5日間
③HMG注射150単位を一定の間隔で注射
●トリガー時期
①主席発育卵胞が平均直径20mmに達した日
②平均直径18mmの発育卵胞が2つの発育した日
③主席発育卵胞が平均直径18mmに達した翌日。
※エストロゲンが3000以上や発育卵胞が4つ以上などはキャンセル
●人工授精時期
hCG注射10,000単位を実施してから44時間以内
●プロゲステロン測定時期
hCG注射後8.7±0.8日目(排卵後7.2±0.8日目相当)

・妊娠・分娩に至らない周期の黄体中期プロゲステロン閾値は、クロミッド®(14.4ng/mL)とレトロゾール(13.1ng/mL)では同程度であったが、HMG注射(4.3ng/mL)では低くなっていました。
・黄体中期プロゲステロン値が低くなると(クロミッド® ≦15.8 ng/mL、レトロゾール ≦14.8 ng/mL、HMG注射 ≦9.1 ng/mL)は、妊娠・分娩に至る割合が低下しました。

≪私見≫

この論文は「32歳平均の女性で卵巣刺激を行い2個くらい排卵させ、人工授精を行い7-12%の妊娠率を得られた群では卵巣刺激別に妊娠できる黄体中期プロゲステロン値の閾値が異なっていること、また低いと妊娠率・出産率が低下すること」を表しています。
HMG注射では、クロミッド®やレトロゾールに比べて黄体中期プロゲステロン値が低くても妊娠することは、内膜のプロゲステロンへの反応性や黄体時期のプロゲステロン値の推移が薬剤によって異なることを示唆しているのだと思います。どちらにしても黄体中期プロゲステロン値は高い方がよさそうですね。
同時に①卵巣刺激に日数がかかった症例は黄体中期プロゲステロン値が低い。②肥満があると黄体中期プロゲステロン値が低いことも示されていますので今後臨床現場で参考にしたいと思います。

文責:川井(院長)

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