父親年齢は出産率に影響をするかどうか。(論文紹介:ドナー卵子での検証)

最近、男性年齢(45歳以上)では妊娠成績に差がでるのではないか?という論文を数多く見かけるようになりました。ただし、通常は男性年齢が上がるとパートナーの女性年齢も上がることが多いあがるため、純粋に男性年齢だけの影響をみることができません。今回、若年女性ドナーから採卵した卵子を異なる年齢の男性に提供した際に体外受精の成績が異なるかどうかで検討した研究をご紹介します。

≪論文紹介≫

Kelly McCarter, et al. Fertil Steril. 2021.DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.03.037

若年女性ドナーから体外受精で採取した卵子を年齢の異なる男性(45歳未満、45歳以上)の精子を受精させレシピエントに移植した154名を対象としました。
主な評価項目は着床率(移植胚数あたりの胎嚢数)、流産率、妊娠陽性率(βhCG >5mIU/mL)、生児獲得率としました。
結果:
妊娠陽性率は男性45歳未満群で81%、男性45歳以上群で69%、生児獲得率は男性45歳未満群で65%、男性45歳以上群で53%でした。着床率は、男性45歳未満群69%、男性45歳以上群66%でした。妊娠陽性率の調整オッズは、男性年齢が高い患者では65%低いことがわかりました(95%CI、0.13、0.95)。生児獲得率(オッズ比,0.45;95%CI,0.20,1.00)、着床率(OR,0.91;95%CI,0.43,1.92)、および流産率(OR,1.5;95%CI,0.5,4.5)の調整オッズは男性年齢が若い群に有利でしたが、これらの結果は統計的に有意ではありませんでした。
結論:
若年女性ドナーから採卵した卵子を異なる年齢の男性に提供した際には、男性年齢が生殖成績に影響することがわかりました。

≪私見≫

ドナーエッグではないと同じ若年女性の卵子を異なる年齢の男性に提供することができませんので貴重なデータだと思います。また、ドナーエッグでの受精法はICSIですから、今回の年齢による生殖医療成績による影響はICSIでは解消できないという結論なんだろうと思います。
この論文では、母集団の数が少ないため、流産率には男性年齢による差はついていませんが、 9つの報告をまとめた最近のシステマティックレビューでは男性年齢が上がると流産のリスクが高まることがわかっています(du Fosse NA, et al. Hum Reprod Update. 2020)ので、数が増えると差がつくかもしれないとしています。
今回の研究では精液所見が解析データに加わっていなかったのが残念な点です。
女性年齢の上昇ほどではないにしても男性年齢の上昇も妊娠には不利に働くというのが最近のホットトピックスです。ただ、年齢は遡ることができませんので、今できることを行なっていくことが不妊治療と関わっていく上で必要なことなんだと思います。
個人的には夫婦間で原因の押し付け合いをしているのは、医療を提供する側としては悲しくなる瞬間があります。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張