男性不妊が児へ与える影響の懸念されること(論文紹介)

「男性不妊があるとどのような児への影響があるの?」と質問されることがあります。2020年12月米国生殖医学会/米国泌尿器科学会が報告した男性不妊ガイドライン(当院ブログ:男性不妊の診断・治療ガイドライン(AUA/ASRM編:2020年):治療フロー・評価方法)でも男性不妊が与える児への影響については触れられており、以前に比べて、患者様から男性不妊がある場合の児へ与える懸念材料について聞かれることが多くなったのだと思います。
男性不妊の有無に関わらず、顕微授精を行うことにより児へ与える影響(男性不妊を伴わない場合は30%、伴う場合は42%、自然妊娠に比べて障がい児のリスク上昇を警鐘)については以前もブログにまとめました(当院ブログ:体外受精によるbirth defects(論文紹介:その1)体外受精によるbirth defects(論文紹介:その2)
この論文は、体外受精全体が児へ与える影響について記載されていて、男性不妊に特化されていませんでしたので、今回、顕微授精で妊娠した子供の長期転帰に関する文献をレビューした論文をご紹介させていただきます。

≪論文紹介≫

Alice R Rumbold, et al. Fertil Steril. 2019. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2019.05.006.

男性不妊と顕微授精の影響について検証しました。全ての研究において症例数が少なく、質の高い研究は限られていて、より大規模な研究で検証していくことが必要ですが、現在のところ①認知発達、②神経発達障害、③成長と代謝、④男性不妊の遺伝、にフォーカスを当てた研究がほとんどです。

①認知機能の発達
顕微授精妊娠した子供の認知機能については、かなりの数の研究がなされていますが質が高い研究は限られています。
重症男性因子は、幼児期の認知機能の発達には影響しないと考えられています。思春期や成人期の認知機能についての研究は不足していますし、サンプル数が少ないため今後も長期的に検証し続ける必要があると考えられています。
②神経発達障害
いくつかの大規模な研究では、顕微授精で妊娠した子供の精神遅滞や自閉症のリスクがわずかに増加することが報告されています。しかしながら、こちらに関しても矛盾した結果も数多くあり、条件を整え検証し続ける必要があるとされています。
③成長と代謝
論文はまだ数多くありませんが、顕微授精で出産した子供は出生後の成長が促進され、特に女児では脂肪率が上昇するリスクがあるとされています。ただし、早産や子宮内胎児発育不全が原因による出生後のキャッチアップが原因かもしれません。
(当院ブログ:体外受精妊娠の子供の成長パターンは?(論文紹介:ノルウェー)体外受精妊娠の子供の成長パターンは?(論文紹介:メタアナリシス)
④男性不妊の遺伝
顕微授精で出産した男児の生殖機能を調べた数少ない研究では、精子形成障害があるとされていますが、原因不明な部分が多いです。Y染色体微小欠失の子供への伝播を示す報告もありますが、一貫性が見られていません。その他の遺伝的原因の可能性、遺伝子に依存しないエピジェネティック異常の可能性、不妊カップルの環境因子や治療因子に関係する可能性などにも注目されて研究がされています。

≪私見≫

男性不妊の児へ与える影響については、まだまだ新しい分野で結論がでていません。全てに関して、影響するしないの相反する論文が存在し、追跡研究を見守る必要があります。ただし、個人的には、児を授かることを目的で不妊原因を検索し必要な治療を行うわけなので、医療者も患者様も次の世代への責任を意識しながら治療にあたるべきなんだと思っています。
ただ、当たり前ですが、「余分な医療介入をしないに越したことがない」ということは定期的に意識し、私たちが提供する医療方針を成績と照らし合わせながら評価するようにしています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張