男性不妊の診断・治療ガイドライン(AUA/ASRM編:2020年):治療フロー・評価方法
不妊カップルの男性に対する診断・治療ガイドラインが米国泌尿器科学会そして米国生殖医学会からFertility and Sterility誌とThe Journal of Urology誌に同時に掲載されています
Emergency Care Research Institute Evidence-based Practice Centerチームは、2000年1月から2019年5月までにPubMed、Embase、Medlineを検索し、エビデンスレベルを示しています。このガイドラインは男性不妊症の管理に関する最新のエビデンスに基づいた推奨事項を提供して今後の日本の不妊治療の良い道標になると思います。
1週間にわたり52項目のguideline statesmentsを紹介させていただきます。
Schlegel PNら.J Urol. 2021.
DOI: 10.1097/JU.0000000000001520.
DOI: 10.1097/JU.0000000000001521.
まず、35歳以下で一年間妊娠していないカップル、35歳以上で半年間妊娠していないカップルは二人で不妊スクリーニングしようというところから始まります。
フローは至って簡潔に纏まっていますので日本語で作り直してみました。
今回の基本評価と男性不妊と男性の健康状態・生活要因との関係の素晴らしいところは、ガイドラインに①男性因子と反復流産との関係を記載したところ、②男性年齢による影響を記載したところ、③精液所見不良の場合の男性の健康状態に踏み込んだところだと思います。参考になさってください。
(基本評価)
1.はじめの不妊スクリーニングは、男女それぞれが一緒に受けるべきである。(Expert Opinion)
2.男性の不妊スクリーニングは妊娠に関する病歴(性生活、ライフスタイル、不妊症の原因となりうる薬の内服有無)があるかどうかを確認するべきである。また、1 回以上の精液検査(理想的には少なくとも1ヶ月間隔)を行うべきである。(強い推奨;エビデンスレベル:B)
3. 1つ以上の異常な精液パラメータを持つ男性、または男性不妊と考えられる男性は、病歴、身体検査、必要な検査を行うために、男性不妊の専門医師によって評価されるべきである。(Expert Opinion)
4. ART 周期に失敗したカップル、または反復流産(2 回以上の流産)のカップルでは、男性の評価を考慮すべきである。(Expert Opinion)
(男性不妊と男性の健康状態・生活要因との関係)
5. 医師は、不妊症の男性や精液検査の異常がある男性に対して、精子形成異常に関連する健康リスクについて問診を行うべきである。 (中程度の推奨;エビデンスレベル:B)
6. 原因が特定できる不妊症の男性には、関連する健康状態を知らせるべきである。(中程度の推奨;エビデンスレベル:グレードB)。
7. 医師は、40歳以上の父親年齢のカップルに、子供の健康に悪影響を及ぼすリスクがあることを助言すべきである。(Expert Opinion)
8. 医師は、男性不妊に関連する危険因子(すなわち、ライフスタイル、医薬品の使用、環境への暴露)について話し合ってもよいが、大部分の危険因子に関する現在のデータは限られていることを患者に説明すべきである。(条件付き推奨;エビデンスレベル:グレードC)
(簡単なポイントの説明)
男性不妊の専門医師による評価と治療は、精液所見と不妊治療の結果を改善することができ、カップルによっては自然妊娠を可能にし、治療費を削減できる可能性があります。
治療効果に加えて、不妊症と診断された男性の1~6%には、悪性腫瘍を含む重大な病気が見つかることがあります。精液検査に異常がある男性は精巣がんの発生率が高く、無精子症の男性は一般的に妊娠可能な男性に比べてがんの発生率が高くなります。
また、死亡率と精液所見で異常があることは相関があることがわかっています。
父親の年齢が高くなると、遺伝子間および遺伝子内の突然変異、精子の異数性、構造的染色体異常、精子のDNA断片化がおこり、遺伝的に媒介される疾患(軟骨異形成症、統合失調症、自閉症など)や奇形児が子供に増加することが報告されています。
食事と男性不妊との研究の殆どは質が高くありませんが、脂肪や肉類を好む食生活より果物や野菜を多く含む食生活を送る男性の妊娠率が高いことがわかっています。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。