ERA®(子宮内膜着床能検査)は出生予後を改善しない?(論文紹介)

ERAを実施すると検査に約3週間、検査結果が出てくるまで約4週間かかるためtotalで2ヶ月の治療の延期が余儀なくされます。その上、費用も20万前後(薬代や採血代などを考えると)かかるため、患者様にどのタイミングでERA検査を勧めるかは悩ましいところです。
ERAの臨床的有用性に関する公表文献は限られていて、2013年、Ruiz-Alonzoらは、反復着床不全患者にERA結果に基づいて個別化胚移植を行うことで成績改善が見られたと小規模な前向き研究を報告しました。2018年、Bassilらのレトロスペクティブコホート研究では、ERA実施の有無にかかわらず継続的な妊娠率に差がないことを示しました。2020年、Simonらは、ERAによる個別化胚移植を評価する多施設共同無作為化対照試験を実施し、12ヶ月の追跡調査の結果、ERAによる個別化胚移植を受けた患者の累積出生率が有意に改善したことを報告しています。ここで問題なのは有用性を報告したRuiz-Alonzo、SimonはERA検査会社の関連人物です。これらの理由からERAの有用性は疑惑の目がもたれ続けています。凍結融解胚移植周期において、ERAが生児出生率に与える影響を調べら新しい報告がでてきたのでご紹介させていただきます。

≪論文紹介≫

Keri Bergin, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.03.031

凍結融解胚移植周期において、ERA検査が生児出生率に与える影響を調査することを目的に単一の大学附属病院で実施されたレトロスペクティブコホート研究です。2014年1月1日から2019年6月30日までの凍結融解胚移植周期を検討しています。
評価項目に影響を与える複数の共変量を用いて傾向スコアマッチングを行い、ERA患者133人を非ERA患者353人とマッチングしました。
ERA後の凍結融解胚移植周期における1サイクルあたりの生児率を、マッチさせた非ERA患者と比較しました。
結果:
ERA群の49.62%とマッチさせた非ERA群の54.96%の生児率(オッズ比0.8074、95%信頼区間0.5424-1.2018)には有意な差はなく、過去の凍結融解胚移植周期回数やERA結果に基づくサブグループ解析でも差は認めませんでした。(採卵時の年齢は36歳前後、移植胚の70%は着床前診断を実施しています。またERAは排卵周期ではLH+6、HCG+7、HRTでは約120時間で実施。移植周期は55%がホルモン補充周期です。)
結論:
ERAは胚と子宮内膜を同期させることにより高い生児出生率を達成することを目的としていますが、傾向スコアマッチングを用いて検討したところERAの実施の有無で生児出生率に差は認めませんでした。

≪私見≫

今回の報告も含めてERAに否定的なブログ内容になっていますが、私個人としてはERAを実施しないと助けられない不妊カップルがいると強く思っていますし、本当に臨床応用してくれたことで着床不全の解明が一段階進んだ検査だと思っています。
ただし、無作為に検査を実施するのは反対です。
あくまで難治性着床不全の患者様などに限定し実施していくべきなのかなと考えていますが、現在のところ、どのような患者様にとって有用なのかのリスク因子が見つかっていない点が検査の難しいところです。また、他の着床不全結果や患者様の今までの胚移植結果を踏まえて個別化胚移植の今後の方向性を決める上で、現在のところ不妊治療施設ごとのERA検査に対する治療判断がとても重要になってくるんだと考えています。

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文責:川井清考(院長)

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